幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.4

幸せな離婚:女友達が恋する相手と夫の不審な行動

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案中。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。

だが恭子は夫の男としての忸怩たる思いを理解し、資金を貸すことを了承する。しかし、水を得た魚のように働き出した夫に恭子はある思いを抱くが……。

第3話:夫からの借金申し込みに妻が出した最終結論とは……?

竜也に200万円を融資してから3ヶ月近くが経とうとしている。貸す際、恭子はいくつか条件を出した。

もう二度とお金は貸さないこと。竜也の仕事が軌道に乗り出したら毎月、少額でいいから貯金をしてほしいこと。

返済額は月に10万円。ただし、事務所開設当初は目が回る忙しさの割に経済的に裕福とはほど遠いだろうから、返済は3ヶ月後からでいい。

その代わり、生活費も一緒に入れてほしい。3ヶ月が経つ前に資金面で困ったりしたなら、黙っていないで相談すること。

これらの条件を竜也は神妙な面持ちで「解った。」と全て飲んだ。

共働きの夫婦が直面する問題――家事にかんしては、恭子は資金を貸すときの条件には組み込まず、本音を伝えて相談した。

「35歳になってから体力が落ちてきた気がするんだよね。仕事をして家事も全部独りでやるって、最近ちょっときつくて。だから、助けてくれないかな」

そう伝えると竜也は、「今までごめん。」と頭を下げた。

「そんなこと言わせちゃうなんて俺、ずっと恭子に甘えっぱなしだったんだな。本当にごめん。これからは協力するよ」

じゃあなにから手伝おうかという話になり、食器洗いと汚れ物が溜まっていたら自分の分だけは洗濯することから始めてもらった。

恭子が自分の汚れ物の洗濯を「しないでいいから。」と止めたのは、シルクのキャミソールや下着など、女性の衣類はデリケートな素材でできているものが多いからだった。洗い方を知らない竜也は当然、汚れ物全てをランドリーボックスから洗濯槽に丸ごと詰め込んで一気に洗ってしまうだろう。そんなふうに洗濯されたら、一度でお気に入りが使い物にならなくなってしまう。

食器洗いは、汚れが残ったままで水切りラックに載せてあるのを目にする日もたびたびだった。だが恭子は「汚れが残ってるから洗い直して。」などと指摘はせず、竜也が見ていないときにこっそり自分で洗い直した。

竜也は――というより男という生き物は、基本的に女よりプライドが高い。家事の面で竜也より先輩に当たる自分が命令するような物言いをしたら、いまだに少年っぽさが残る竜也はいじけてしまうのではないか。

――それに、何事も最初から完璧にできる人なんていないし。
というのが恭子の持論でもあった。

資金を貸して以降の竜也は、水を得た魚のように毎日事務所へと通っている。仕事がなく困っていた頃とは比べようがないほど目に力が宿り、肌艶もいい。

――わたしはこういう竜也が好きだったんだ。

少しずつ精気を取り戻す竜也を見て、恭子は実感している。

フリーにとって仕事が忙しいのはありがたいことである。だから最近、事務所に泊まり込む日が増えつつあるが、黙認してもいる。

ただ、忙しい竜也が事務所に泊まる日が増えるのと同時により一層、家事をまめまめしくするようになったのは、自分が本音で相談したからなのか。それとも竜也になにか後ろめたいことがあってなのかは判断できない。

――お金を借りた上に浮気なんて……まさかね。

3ヶ月待つと言ったからには竜也を信じ、それまで口出しはしないと決めていた。

そんな日々をすごし返済日を翌日に控えた夕方。竜也から電話が鳴った。

「ごめん、今日も事務所に泊まる。お金は明日返すから」
「そう、解った。」

と電話を切り、恭子はある出版記念パーティーへと向かった。

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