幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.3

幸せな離婚:夫からの借金申し込みに妻が出した最終結論とは……?

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案中。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。

そんな夫からある日、「会社を立ち上げるための資金を貸してほしい。」と言われた恭子が出した結論とは……?

第2話:夫からの相談を手放しで受け入れられない理由。それは……。

恭子に土下座してまで聞いてほしかった借金の理由を竜也は座り直して説明を始めた。

「恭子に保留されてる間、一緒に会社を立ち上げる黒木さんともう一度話し合ったんだ。今この不況だろう? 俺だってそれなりの規模の会社を設立するのは怖いんだよ。

だから最初はふたりで事務所を借りて、SOHOから始めませんかって提案してみたんだ。業績がよくなって先が見えてからでも起業するのは遅くないって。そうしたら黒木さんも俺の案に乗ってくれたんだ」

「っていうことはつまり……」

「資本金は要らないんだ。事務所を共同で借りる資金と雑費だけ頼む。200万にはならないと思う」

「それを頼むなら先に、わたしに黒木さんっていう人を紹介して。」

と恭子が言い、先日3人は麻布十番の『ティーラウンジ ザ・ガーデン』で初顔合わせをした。すでに桜は散り終えたものの、東京タワーを背に四季のうつろいゆく風景を楽しめるこのカフェは、恭子も時折打ち合わせで利用する場所だ。

初めて会い名刺交換をした黒木俊輔の第一印象は、はっきり言ってかなりいい部類に入った。

かけているノンフレームの眼鏡は、NASAの宇宙飛行士も着用するというSilhoueteだろうか。その奥にある細い目と清潔に切り揃えられた短い黒髪が知的ではあるがやや神経質そうな印象を与える。

事前に竜也から聞いていた、自分と同じ35歳よりはわずかに年上に見える。だが、そのぐらい細やかそうな性格で落ち着いた雰囲気を持つ相方のほうが、どんぶり勘定で生きている竜也を引き締めてくれるのではないかと思った。

「これ、わたしがここ1年間で手がけた仕事です。全てではありませんが」

あらかじめ資料を用意し、信用を得ようとする心配りにも恭子は胸を撫で下ろすことができた。

「わざわざありがとうございます」

ノートパソコンのデスクトップ上に表示された資料を見ると、大手出版社も取引先に名を連ねている。

――取引先がこんなにたくさんあるのになぜ、仕事が減っている竜也と一緒に仕事をしたいと思うの?

という思いを打ち消し、恭子は黒木に尋ねた。
「つかぬことを伺いますが、なぜ真壁をパートナーにしようと思われたのですか」

その問いに竜也が「失礼だなあ。」と苦笑しつつも黒木に目線で先を促すと、黒木が恭子をまっすぐに見つめた。

「真壁さんはライターとして高い能力があるからです」

ストレートに夫をほめられたことは嬉しいが、その理由だけでパートナーに? という恭子の疑問を黒木は表情から読み取ったようである。さらに説明を続けた。

「真壁さんから聞いているとは思いますが、フリーには“40歳の壁”が存在します。実力があるのにその壁に負けて仕事を失うフリーは想像以上に多いんです。

わたしが知る大御所カメラマンには、土木現場などの日雇いアルバイトで食いつなぎながらオファーを待つ人もいるほどです。僕も近い将来、その壁を迎えるはずです。その壁を打破する方法は1つしかありません」

「1つだけ?」恭子が思わず口にすると、黒木が頷く。

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