幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.2

幸せな離婚:夫からの相談を手放しで受け入れられない理由。それは……。

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案中。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。

そんな夫からある日、「確実に仕事を増やせるチャンスがある」と恭子は相談を受けるが……。

第1話:もう顔も見たくない!膿んだ夫婦が選ぶのは離婚か現状維持か!?

「その話、少し考える時間を頂戴」

恭子は竜也から受けた相談を保留した。なんとなく感じた嫌な予感が当たってしまったのだ。

竜也が言った「確実に仕事を増やせるチャンス」――それは出版社の下請け、いわゆる編集プロダクションと呼ばれる会社を、フリーの編集をしている知人と立ち上げるための資金を貸してほしいという話だったのである。

――家に生活費も入れないくせにお金を貸してほしいだなんて、どういうつもりなの!?

打診されたとき、最初にわいた感情だった。が、口には出さなかった。

懇願する相手に本音のまま責める言葉を吐けば相手は傷つくはずだ。その竜也に与えた傷が「人を傷つけてしまった。」という後悔とともに自分にはね返ってくる気がしたからである。

――自分が困ったらなんでもお願いしてくるくせに、わたしは竜也に助けられたことなんて一度もないかもしれない……金銭面では。

「金を貸してほしいんだ。」という一言が生活費を入れてもらえない日頃のストレスを恭子に自覚させ、その上家事もしてくれないという不満に飛躍する。そして、「今までどちらが精神、金銭全てにおいて与える量が多かったのか」という、利己的な考えに恭子を走らせてしまう。

たぶん竜也は自分が離婚を考えているとは微塵も想像していないのだろう。だから今回みたいに、平気で甘えられるのだ。

竜也は他人の心を察することに長けていると思っていたが、男はやっぱり口に出さなければ解ってくれない。

「男ってほんと、なんでも口に出さないと解ってくれないよね」

そう言葉にすると、前の席に座っている広田夏子が「女より男が鈍いのは基本でしょ。」と応じた。恭子の隣に座っている早川真実も、「男と女が全て理解し合うなんて無理よ。」と返す。

竜也と同じフリーライターをしている夏子と、出版社で書籍の編集を手がける会社員の真実と恭子は今日、南青山にある『チーズレストランDAIGOMI minamiaoyama』で食事をともにしている。

3人が不定期に集まるようになり1年ほど経つ。

マスコミの世界に属する者たちは夜な夜な、都内のどこかしらに誰が主催というわけでもなく集まり、そしてまた夜の帳に消えて行く。その会に業種の縛りはない。

3人は日を開けずして再会したため、「ああ、先日の……。」と自然と近くの席に座ったことが意気投合したきっかけだった。

仕事を持つ女3人が顔を寄せ合えば、話はおのずと仕事と男がテーマになる。

恭子が既婚者だと知ると「結婚したいのに仕事が忙しすぎて出会いがない。」と嘆く夏子はうらやましがったが、バツイチの真実が「結婚したからって幸せになれるとは限らないわよ。」と自虐的な笑いを添える。

真実の意見に恭子が「そうそう。」と頷き、「だから仕事はなにがあっても辞められないよね。それに、自分から仕事を取ったらなにも残らない。」

と恭子が言うとふたりが首を縦に振る。誰かに頼るのではなく常に自立していたいという価値観が酒の酔いも手伝い、短時間のうちに一致した。

夏子が33歳、恭子が35歳、真実が36歳という年齢の近さも互いをより一層、親しみ深くさせている。

――このふたりに竜也のことを相談してみたら、どんな反応をするだろう。

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