2016.04.09
幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.1東京に限らず離婚が珍しくない昨今。なぜ幸せを誓い合い結婚した夫婦は離婚に至るのか。
結婚生活に悩む男女は大勢いるが、離婚を決意するターニングポイントとは。
そして、今回登場するふたりは結婚生活の継続と離婚、どちらの選択をするのか――。
「今日はまだ帰りたくないな……」
仕事を終えて夜の事務所でひとり、恭子は「だって顔を見たくないんだから仕方ないよね。」と自分に言い訳しながら取引先からもらった赤ワインをグラスに注いだ。
フリーの映画プロデューサーをしている恭子が借りている事務所は、赤坂見附から徒歩7分ほどの場所にある。といえば豪華なマンションを思い浮かべる人もいるだろうが、実際は築40年を超えている。
だが持ち主の手入れが行き届いているため、実年数よりはうんと若く見えた。
ただし室内は、スタッフ3名分のデスクと来客用のソファーを置けば足の踏み場もなくなるほど手狭である。
「オフィスはどこ?」と聞かれて「赤坂見附です。」と見栄を張りたかったわけではない。
恭子には、7年間フリーランスを続けてきたなりの仕事への哲学があった。
「固定費は最小限に抑えて貯蓄に励み、収入の浮き沈みに一喜一憂しない体制を維持する」
だから今でも常勤は雇わず、繁忙期のみ学生アルバイトを雇う形で、基本的にはひとりで仕事を切り盛りしている。
映画プロデューサーの仕事は企画立案から制作費集め、監督や脚本家やスタッフの決定、撮影が始まれば現場の指揮を執るなど多岐にわたる。その中には、いかに無料でテレビや雑誌、Web等のメディアに宣伝してもらうかという配給宣伝も含まれる。
映画会社やテレビ局に出版社、芸能プロダクションが集中する都心でアクセスがよく、できるだけ営業に回りやすい地。打ち合わせは来訪ではなく訪問することが多いから、家賃はなるべく安めでいいけれど、時間と交通費を節約するため駅から徒歩圏内。
都心に居を置かなければ成立しない仕事に就く恭子の条件に敵う物件が、赤坂見附にあっただけの話であった。
その事務所ですでに仕事を終えている恭子が「顔を見たくない」と思う相手――それは夫の竜也を指す。
「最近、仕事はどんな感じ?」
そう恭子が聞けば、
「俺だって頑張ってるんだから、何度も聞かないでくれよ!」
と竜也がイライラと答えるようになって、どれぐらいの時間が経っただろう。
数えられるほどしか仕事の話を聞いていないのに、“何度も”と表現する竜也がかなりの焦燥感を抱えていることは、容易に察知できた。
――わたしたちは後戻りできないほど膿んだ関係になってしまったんだな……。
竜也の姓、真壁になった7年前からの歴史を恭子は振り返る。
東京生まれ、東京育ちの今年41歳になった竜也と、神奈川県出身で竜也より6歳年下、35歳になる恭子は仕事の現場で知り合った。
【幸せな離婚 written by 内埜さくら】の記事一覧
2016.06.29
Vol.14
幸せな離婚 最終回:最終結論を下した妻は本当に幸せになれるのか……!?
2016.06.28
Vol.13
いよいよ明日で最終話!「幸せな離婚」全話総集編
2016.06.22
Vol.12
幸せな離婚:病院で“あの女”との直接対決! そして妻の知らない新たな事実が明るみに
2016.06.15
Vol.11
幸せな離婚:愉しい時間は長く続かない!? 夫の体調に異変が……!!
2016.06.08
Vol.10
幸せな離婚:夫とのレス修復がかなわないまま“あの女”と遂に対面!
2016.06.01
Vol.9
幸せな離婚:夫の浮気疑惑が浮上したその夜、妻は別の男に抱きしめられ……。
2016.05.25
Vol.8
幸せな離婚:女には理解できない男同士の友情。2人のせいで真実は闇の中へ……!?
2016.05.18
Vol.7
幸せな離婚:一番の女友達の恋人は、まさかのあの男だった……!
2016.05.11
Vol.6
幸せな離婚:嫉妬心をむき出しにする夫とアラフォー独女の闇
2016.05.04
Vol.5
幸せな離婚:妻だからこそ憂う夫の仕事と金銭感覚
2016.04.27
Vol.4
幸せな離婚:女友達が恋する相手と夫の不審な行動
2016.04.20
Vol.3
幸せな離婚:夫からの借金申し込みに妻が出した最終結論とは……?
2016.04.13
Vol.2
幸せな離婚:夫からの相談を手放しで受け入れられない理由。それは……。
おすすめ記事
2016.03.16
東京いい街、やれる部屋
東京いい街、やれる部屋:東銀座在住CMプランナーの部屋はやはり...?
2021.07.23
vs.美女 ~広告代理店OLの挑戦~
「“中身で勝負”って言葉、嫌いなのよ」初対面の女が26歳OLに語る本音の意味とは
2018.11.18
オトナの恋愛論~解説編~
年収500万の男でも、これがあれば勝つ!最初は女から相手にされていなくても、挽回できる必勝テク
2018.08.14
恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜
「共犯意識」で結ばれていく既婚の男女。嫉妬に狂った人妻が、禁断の域に踏み込んだ夜
- PR
2023.05.26
結婚を意識する3年目のふたりの、艶やかな6月の過ごし方
2016.03.08
慶應ガール、29歳
慶應ガール、29歳:このまま秘書でいいのかな。独立を迷ったあの頃 → 今は女社長
2023.02.08
もう1人の私
Amazonプライムのおすすめ動画を見て、30歳男がふと思い出した元カノ。思わずLINEしたら…
2020.02.14
ひも結び
「君なら理解してくれると思ってた」2年半付き合った彼氏に突きつけられた、無理難題
2015.09.28
「ふたりのニコライ」―作家・柴崎竜人の恋愛ストーリー
酔ったオンナを相手に童貞喪失となるか 「ふたりのニコライ」第五話
2021.09.30
籠のなかの妻
「10万円!?」夫から提示された生活費に妻は絶句。足りないと嘆く彼女に、夫が差し出したものは…
東京カレンダーショッピング
ロングヒット記事
2023.04.26
【ご報告】
ヒモ同然だった元カレが、司法試験に合格。生まれ変わった彼から差し出された、封筒の中身は…
2023.05.05
甘いひとくち〜凛子のスイーツ探訪記〜
「ちょっと休んでくるね…」休日デートの途中、31歳女が涙をこらえて彼氏から逃げたワケ
2023.04.23
男と女の答えあわせ【A】
女性の家で目を覚ました瞬間に、慌てて帰った男。部屋でうっかり見えてしまったモノに驚愕し…
2023.05.14
ハワイに憧れて
離婚して10年経っても、元妻に会い続ける男。不審に思った現妻が、夫を問いただすと…
2023.04.22
男と女の答えあわせ【Q】
3度目のデートでキス。「付き合おう」と言って家まで来たのに、翌朝に男が慌てて帰った理由
2023.04.28
スモールワールド~上流階級の社会~
「花嫁は彼のこと、好きじゃなさそう」結婚式に出席した無邪気な女子が、そう思った理由とは…
2023.05.09
二世お受験物語
名門校卒だと知られた途端、教室のママ友たちの「見る目」が変わり…。“二世受験”の苦悩
2023.05.16
AM9時、六本木のカフェで
カフェで堂々と別れ話をするカップルに遭遇。思わず聞き耳を立てた女が、恥ずかしさに頬を赤らめたワケ
2023.04.27
許さない女、許す男
離婚から1年。男が初めて別れを後悔した、元妻からのLINEの中身とは?
2023.05.04
嘘
嘘:計画通り“医者”を捕まえた32歳女。しかし婚約直後、知りたくなかった彼の本性に触れ…
この記事へのコメント