2016.04.09
幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.1「仕事場で会う人間と恋愛関係になると別れたとき、あとが面倒だから異性として見ない」
大学時代、映画会社でアルバイトをしていた先輩の後釜として入り、そのまま就職した恭子が20代の頃に学んだ処世術である。
だから初対面で竜也と名刺交換をしたときも、恭子にその気はまるでなかった。おそらく身長が180センチ近いであろう痩せ型の体躯に、大きな奥二重の目と存在感を主張するまっすぐととおった鼻筋を持つ竜也は、女性の関心をそそる風貌をしている。
正直、恭子も惹かれかけたが「仕事だから。」と押し隠した。
一方で竜也は仕事とプライベートを切り離す感覚は持っていなかったようである。マニッシュなショートボブで卵型の輪郭を潔く出し、ぱっちりとした二重瞼に笑うとナチュラルに膨らむ涙袋が印象的な恭子に、瞬時に惹かれたようである。
二度ほど竜也からの食事の誘いを断ったが、竜也は挫けず恭子を誘い続けた。その押しの強さに恭子が根負けして、紆余曲折はあったものの結婚に至ったのである。
そんな遠い過去に思いを馳せているとLINEが届いた。竜也からだ。メッセージが画面に表示される。
「もう仕事終わった?」
――わたしにLINEする暇があるなら仕事に精を出してよ。
努力しても報われない状況に竜也が追い込まれていることを知りながら、恭子は既読にせずスマホをデスクに置いた。
竜也は大学時代に出版社でアルバイトを始め、そのままフリーライターになった。就職経験がない。
今年41歳だからライター歴19年……といいたいところだが、40歳をすぎてから仕事が激減している。最近では仕事がゼロという月も珍しくない。
「ライターには“40歳の壁”が存在するって言われてるんだ」
結婚当初、竜也は語っていた。実際に雑誌のページを作る編集者は30代後半あたりまでで、多くは20代の若手が占めている。
だが、若手の編集者が依頼しやすいのは同年代であり、20歳近くかそれ以上も年の離れたフリーランスには依頼をしづらいのが実情である。ベテラン相手だと指示が出しづらい、常に顔色を伺わなければならない、というのが主な理由だった。
だから不惑の年を迎えたライターは、仕事をオファーする権限を持つ若手編集者たちから次第に敬遠され、仕事量が先細っていく、というのである。
「でも俺は大丈夫だから心配しないで」
自分に依頼をするのは小さな出版社がメインで、自分より年上の編集者がページを作っているから安泰だ、というのである。
しかし竜也が40歳のとき、取引先のメインである出版社が倒産した。竜也と恭子をめぐり逢わせた映画雑誌を作っていた会社である。そこで仕事量と収入が激減するに留まらず、別の出版社の編集者の異動が相次ぎ、今の惨憺たる状況に陥ってしまったのである。
同じフリーランスとして仕事をする恭子は、こうなる以前から竜也の仕事に対する姿勢に不安を覚えることがあった。
「取引先は絞らず細く広く持ち、リスクヘッジを怠らない」
というのが恭子の方針だったからだ。
当然、結婚前にその話はした。
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