サエコの口から語られた真実。
その時、サエコの後輩・奈々も、サエコがあげたインスタの写真を見て、思わず笑った。
『マルゴット・エ・バッチャーレ』でのサエコと頭が後退した男との2ショット。
「さすが。サエコさん。本当に花より実をとるのねぇ…」
奈々は、数日前の恵比寿のビストロでのサエコの会話を思い出していた。
「私は、自分のポテンシャルの最高値をわかってるわ。」心なく笑ったサエコはこう続けた。
「生まれ持ったポテンシャルに、女の若さというレバレッジをかけたところで、所詮、私は凡庸に毛が生えたような女。あんな大金持ちの彼が、自分のポテンシャルに余りあるってことくらいわかってるわ。彼との未来を夢見れるほど少女でも、期待するほどバカでもないの。」
サエコは笑う。
「若い女には、自分の経験値を一気に何倍にまでも引き上げてくれる足長おじさんがいるものだけど、私にとってのそれが彼だったのかな。」
サエコの食べるスピードは全く衰えず、メインの鴨のロティまでペロリと平らげてしまった。あまりのボリュームに奈々が残した2切れも「いらないならちょうだい」と颯爽と口の中に放り込んだ。卑下しているわけでも、強がりでもない証拠に、サエコは、一層カラリと健康だ。肉をごくりと飲み込むとグラスに残った赤ワインで口をゆすぐ。
サエコは声を落として言った。
「それにね、英雄色を好むっていうけど…とにかく彼、過度なプレイをお好みで。徐々にエスカレートして、挙句の果てには……」
サエコが奈々の耳で打ち明けた話に奈々は驚愕する。
「3人までなら聞いた事ありますけど……それ、彼以外の9人は、全部女性ですか…?」
「そうよ。さすがにお手上げ。タオル投げて場外に逃げ出したわよ。」
クックッと笑うサエコから、ふわりとサンダルウッドのオリエンタルな香りが漂った。この香りを纏うあたりサエコという女の本質が垣間見える。甘ったるいだけの香りじゃない。スパイシーで、妖艶で、くらくらするほどの官能的な香り。
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