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  • 新米弁護士 倉木麻美 Vol.2

    新米弁護士 倉木麻美:交際8年の彼と同業の男友達。天秤にかけて、上回るのは?


    友情か愛情か。まっすぐな言葉に心がザワつく

    24時過ぎ、お店に着くと、すでに雄介の姿があった。麻美が席につくと「お疲れ!」と八重歯を見せて、笑顔で迎えてくれた。その人懐っこい笑顔をはじめて見た時、麻美は「昔飼っていた柴犬の次郎に似ている」と思った。

    「今週も俺たちよく頑張った!」
    「乾杯〜!」

    ビールから早々にワインへシフトチェンジ。飲みながら、ここ最近の激務ぶりを報告し合う。雄介もこの1週間、資料作成に追われていたらしい。

    「で、吉見さんはどうなの? 相変わらず?」

    ここからは、麻美のターンだ。溜まりに溜まっていた鬱憤を一気に吐き出す。

    「吉見の奴、口を開けば『俺たちの頃(旧司法試験)は、合格率2~3%だった』って。悪かったよね、合格率20%越えの試験で、弁護士になっちゃって!!!」

    「あの人、土日に締切設定してくるんだよね。提出したところで、どうせ見もしないのに。」

    「質問したら、『そんなんでよく司法試験パスしたよなぁ』って聞こえるようにつぶやくの。嫌味を言われるのが嫌だから聞かずに進めたら、『わからないことがあったら、逐一聞け』って。あーー腹立つ!」

    話しているうちに、どんどん話したい事が出てくる。その間、雄介は「うんうん」と頷いている。同業だからって、気の利いたアドバイスをしてくるわけではない。というか一切求めていない。ただ、聞いてくれるだけでいいのだ。

    そして時折、ここぞというタイミングでこう言ってくれる。麻美がいちばん欲しい言葉。

    「麻美は頑張ってるよ。」

    まるで言葉で、頭をよしよしされている気分だ。自分から「さくっと食べよう!」と言ったくせに、結局話が止まらず、気がつけば夜中の2時をまわっている。そういえば、少し眠くなってきた。

    お店をあとにし、大通りを目指して歩いていると、雄介が「あ!」と思い出したように言う。

    「桜、散っちゃったかな」
    「もう散ってるでしょ? 今週、雨たくさん降ったし。」

    麻美が色気のない返事をすると

    「散り際の桜もキレイだよ。」

    妙に真剣な顔つきで言ってきた。雰囲気に押されて、麻美はそれ以上何も言えなかった。

    「せっかくならお酒を買っていこう!」と雄介が言い出し、最寄のコンビニに入る。お酒を選んでいると、先日飲んだお酒を見つけた。嬉しくて、思わず声をかける。

    「ねぇ、このお酒知ってる? 新しく発売した、氷結プレミアムっていうお酒」

    ショーケースから取り出して、雄介に手渡す。つい先日、吉見にドラフトを提出して修正なしで戻ってきた、その日、このお酒で「ひとり打ち上げ」をしたことを話した。

    「吉見さんを初めて撃破した日に飲んだお酒? それは買わなくちゃ、じゃん!」

    「撃破」という言葉のチョイスが、ゲーム好きな雄介らしいなと思った。たまらず笑うと、雄介は「これ買うよ」と言ってシチリア産プレミアムレモンを2本手にとり、レジに向かった。

    麻美の言う通り、桜は9割型散っていた。ほぼ緑だし、桜の花びらが地面に落ち、朽ち果てて、少し切ない気分だ。

    お酒を片手に、桜並木の方に向かってゆっくり歩く。純也以外の男性と夜桜を見るという行為に、一種の背徳感のような物を感じ、ドキドキしてしまう。隣は純也のものだから、私は少し先を歩く。横はダメ。自制する。

    氷結プレミアム

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