本記事は、2016年に公開された記事の再掲です。当時の空気感も含めて、お楽しみください。
前回のあらすじ
関西出身のインターネット広告営業マンのシンゴ(28)は、社会人6年目で突如、東京転勤に。仕事や恋のライバルを蹴散らし、マネージャー昇進、交際中の理恵とも結婚秒読みと、絶好調のシンゴだったが…。これは、地方から転勤してきたアラサー社会人の、東京の独特な文化に染まりきった女性たちとの闘いを描いた物語である。
前回:自己満足な結婚式と裏腹な、東京の結婚での悩み
月日は流れ…。2年後のシンゴは今、どこで何を?
シンゴが大阪から東京にきて、はや2年半がたった。当時28歳の彼だった彼も、いよいよ30歳の大台に。仕事もプライベートも、一番油が乗り出す頃、彼は一体いまどこで何をしているのか。
◆
「はい、ぜひともお打合せさせていただきたく!今週のご予定はいかがでしょうか?」
相変わらず、営業マンとして世話しなく、北は北千住から南は南千住までと言わんばかりに、精力的に東京を飛び回っているようだ。
「ようこそお越しくださいました。G社邦光社長!」
「いやいや、シンゴ君。いまや君も『社長』じゃないか。気楽に頼むよ。」
「いえいえ。親しきに中にもなんとやら…ですから。さて、本件ですが、耳寄りな情報がありまして…。」
シンゴは前職を退職し、企業が保有する不動産の運用・管理に関するコンサルティング会社を起業していた。いわゆるCRE戦略・マネジメントと呼ばれる領域だ。事務所は日比谷線の神谷町周辺に構えていた。
「君のその、新興国の不動産に特化したコンサルティングのノウハウは本当にすごいと思うよ。弊社の海外展開は大助かりだよ。一体、どこから情報を手に入れているんだい?」
「残念ながら企業秘密です(笑)」
どうやらそれなりに、仕事は非常に順調のようだ。
東京のピラミッドで「ちょっとだけ上の平凡」を選んだ二人のその後は。
「そういえば、溝口君と優子さん、最近、家を買ったそうだぞ。なんでも、郊外に家を建てるかどうかで揉めに揉めたそうだが(笑)広さよりもブランド重視で、中古の小さな戸建て物件を東横線沿いにしたそうだ。」と邦光がい言う。
「きっと優子さんが駄々をこねたんでしょうね(笑)トップ広告代理店といえど、せいぜい年収は30代でも1,100万程度。結局はサラリーマンですから、どこかで妥協が必要ですからね。旦那はきっと、郊外の自然の中で、だんじりを大音量で流したかったんだろうな(笑)」とシンゴが答える。
「そういえば、君も溝口君の勤めている広告代理店から転職のオファーがあったそうじゃないか。」
「ええまぁ…。だけど、少しばかり給与が上がれど、サラリーマンのままじゃ、ここ東京じゃダメだなって気づいたんです…。」
仕事も恋愛も絶好調、まさにMajiで脱・東京ビギナー5秒前だったシンゴ。
ようやくこの街に馴染み、骨を埋めるのかと思いきや、一念発起し、未だにこの東京という街にもがいていた。
当時付き合っていた理恵とも、別れてしまっていた。
社長となったシンゴと、社長系にしか抱かれない女。
同日22:00。六本木。『鮨 なかむら』にて。
「ごめんね、遅くなって。」
「ううん、全っ然、大丈夫よ♡『社長』は仕事が大切だからね、今日もお疲れ様。」
シンゴを待っていたのは、以前、優子に紹介された、社長系にしか抱かれないと宣言した『玲子』だ。以前はこっぴどく自分をフった女から、社長となった今、掌を返すがごとく媚びへつらわれていた。
当時25歳だった玲子も今や27歳。いまが絶頂期とみるか、衰退への始まりとみるかは人それぞれな、微妙なお年頃である。
「まさかシンゴさんが本当に社長になるなんてね。」
「玲子のために頑張ったんだよ。」
「もー!絶対嘘!(笑)他にも女がいるんじゃないのー?」
「そんなわけないだろ(笑)」
はっきり言ってシンゴからしたら、玲子は自分に好意を抱いてくれている女のOne Of Themに過ぎなかった。
ただ、27歳という若いだけでなく、少しばかり相手を慮ることが出来る、そのちょうどいいステージの女は、仕事が忙しい彼にとっては、嫌いではなかった。
「今夜もウチに泊まって行きなよ。」
「またヴーヴ・クリコ飲んでいいなら行くー!あの、3つまとめてキレイな夜景を見ながら飲むのが好きなんだー。」
「それくらい、いくらでも飲んでいいよ(笑)」
シンゴは今、六本木一丁目駅すぐのタワーマンション、家賃月40万円の泉ガーデンの高層階に住んでいた。
3つまとめてというのは、彼の部屋から見える、東京タワーとレインボーブリッジと、スカイツリーが一挙に並ぶ眺望は、高級マンションといえど中々無いのだという。
これが彼が求めていた、憧れの東京ライフ…なのか?
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