因縁の二人がまさかの結婚!?相変わらずの優子とその結婚観。
「えー、それでは、お二人の結婚を祝して、乾杯!」
結婚式二次会のパーティで、友人代表としてシンゴが挨拶をしたその先には、あの優子と溝口がいた。
「シンゴさん!今日はありがとうございます♡」
「まさか、君たち二人が結婚するなんてね…。」
以前、優子が幼馴染の会社員と結婚すると宣言していたのは、なんとあの元ライバルの溝口だったのだ。
東京における、恋愛と仕事のライバル的存在だった二人が、まさかこうしてくっつくとは夢にも思っていなかっただろう。
二人の二次会のパーティ会場では、和太鼓の演奏が鳴り響く。岸和田出身の溝口の、『だんじり』の余興が始まっていた。
岸和田民が結婚式でもだんじりを流すという都市伝説は本当だったようだ。
「彼のだんじり、イケてるねー。」
「ありがとうございます!私、ああいうの全く興味が無いんですよ♡幼馴染とはいえ、ちょっと地域が違うと文化も全然違うんで、もう好きにしてって感じです(笑)」
溝口が少しだけかわいそうだ。
「結婚式なんて、男女ともに自己満足みたいなもんでしょう?私は私でブライズメイドとかしましたけど♡あ、もちろん、基本的には彼のお金ですよ♡『ここでちょっとでもケチったら、一生恨むから。』って言って(笑)」
彼はいま、大手広告代理店の営業から異動を希望し、新聞の広告を扱う部署に配属になったらしい。なんでも、地方新聞局と組んでの地域振興企画をやっていきたいんだとか。
「そういうのよくわかんないんですけど、まぁ彼と二人でいて居心地がいいんでなんでもいいかなと。出張で地方でもなんでも行っててくれれば、それはそれで、その間に夜遊びできますしね♡」
相変わらずの優子だが、そのまま彼女は話を続けた。
「シンゴさんも今年で29歳ですよね?そろそろ結婚とか考えないんですか?今、同僚の方とお付き合いしているんですよね?」
「あぁ、理恵のことか。そうだね、もちろん考えているよ…。」
そう話す彼の言葉は、少しだけ迷いがあるように聞こえた。
結婚前のカップルが必ず悩む「東京の不動産事情」
「うーん。やっぱり高いね。港区に住もうと思うと、中々築浅で希望の広さのマンションは難しいね…。」
「私、別に少し都心から離れても大丈夫よ?なんなら、逗子とかに一戸建て立てちゃうとかでもいいしね。多少は仕事から離れた生活も、悪くないかもよ?」
「確かにねー。でもディスポーザーは譲れないなー。あの粉砕する感覚が癖になるよな…。」
「マジでそここだわる理由わかんないから。どうせ料理しないでしょ?」
「ま、まぁね…。今度、不動産メディアの営業をやってる友人にも、色々とアドバイスを聞いてみるよ。」
現在、二人は中野のシンゴの40平米ほどの1Kのマンションで半同棲をしているのだが、だんだんと結婚の話が現実味を帯びてきたのか、もっぱらの最近の土日は、理恵と二人で不動産の内覧会に行くことが恒例になっていた。
駅近、新築築浅、部屋数にディスポーザーなどの設備…、希望の条件をすべてそろえた物件は、ゆうに1億円を超えた物ばかりだ。
二人とも昇進をしたばかりとはいえ、お互いの年収は900万円程度。それなりのDINKS的生活が送れそうではあるが、やはり都心での贅沢な生活は厳しいだろう。
アートディレクターを生業にしている理恵は、自然に触れて感性を大切にしたいのか、すこし都心から離れた生活でもいいと言う。
ー郊外に家を建てるんだったら、関西に住んでた方が下手したら二倍は安いし、なんか損した気分だよな…。とはいえ、微妙なマンション住んでもなぁー
―これが東京の暮らしってヤツなのかな…―
そんな風に自分を納得させようとするシンゴに、ちょうど一本のLINEが彼の携帯に届いた。
『シンゴさん、本当にそれでいいんですか?』
あの「黄色いクマ」のアイコンが、彼の携帯の中で不気味に光っていた。





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