戦いの火蓋は切って落とされた・・・
翌週末の金曜日。その会は、広尾のフレンチにて開催された。
あらかじめ、さとみの仲間たちには、タクミへの警戒レベルをMAXまで引き上げるように再三通告し、座席もタクミの隣を1席空け、近づけないよう念を入れた。
もちろん、その獰猛なオスの隣の席には、あの女が入るのだが、肝心のサエコからは「仕事が終わらなくて1時間ほど遅れる」と先ほど連絡があった。さとみは、思わず舌打ちをする。
—遅れて登場するなんて昭和な手を・・・これだから大分出身の田舎者は。—
しかしながら、サエコが、いつしか後輩・奈々にこう話していた。「3時間の合コンより、遅刻して1時間の合コンを。1時間の合コンより、1時間のパーティーを。」と。即ち1時間あたりのパフォーマンスを極限まで高めることはサエコの定石らしい。
男性陣は、タクミの他に、一橋大学時代の同期で弁護士3人と、タクミが顧問弁護士をしている企業の(若干頭が後退しかけている)役員の計5人だ。皆、30代前後の、稼いでいる男特有の自信とオーラが漂っている。
中でも、久しぶりに会ったタクミは、怯むほどのいい男になっていた。
無造作に整えられた髪、高い鼻梁と長いまつげは間接照明の光を受けて端正な顔に影を落とす。その影はそのまま男の心に潜む闇のようで、制服を着ている10代から顔見知りのさとみでも、ゾクっとした。
乾杯をして、滑らかな会話が淀みなく進むうちに、さとみは、女たちが伺うようにタクミをちらちらっと覗き見ているのに気付いた。異性をたらし込む魔性の魅力というのは、女に限ったものだけでは無いことを知る。
ーあれだけ注意したのに。頭の悪い女たち・・・ー
しかし、育ちの良さの下地に、色気が匂い立ち、そこに金の力がバックから顔を出した男が、こんなにも女を捉えるものであるということに、さとみ自身が誰より驚いている。さとみは焦りとも苛立ちとも分からぬ混沌とした感情を抱く。その感情が、"友達"である女たちへの心配なのか、女たちへの牽制なのか、男への嫉妬なのかは本人にもわからない。
その時、店の扉が開き、一人の女が入ってきた。
この記事へのコメント
コメントはまだありません。