「遅れてごめんなさい。」
3月に入り少しだけ空気が温みつつあったがまだまだ冷え込む春の始まりの夜。
遅れて登場したサエコは、「早春の風」が吹き始めると開花するとも言われている、アネモネの真っ赤な花のような鮮やかなワンピースをまとっていた。
さとみは、不覚にもサエコに目を奪われた。
普通の女は、合コンや、食事会のような異性が混じる場で、同性からの嫉妬や冷ややかな視線を恐れて、無難でいながらにして地味すぎない、白やベージュピンク、ライトグレーといったような色味で臨むことが多いが、とりわけ、サエコの場合は、何を恐れることがあるのだろうか。
何かしらの匂いを嗅ぎ取り、罠を仕掛けてきたさとみへの宣戦布告とばかりに、目には目をで応戦してきた不敵な気配すら滲み出ている気がするのは、さとみの考えすぎだろうか。
さとみは、すがるような気持ちでタクミに視線を向けたが、タクミの目は、すでにサエコを捉え、不吉な光が宿っていた。
一方、その頃広尾の高級マンションの一室で、別の女が、サエコの彼氏に別の罠を仕掛けようとしていることは、いくらサエコでも知る由がない。
アネモネの花言葉は、"恋の苦しみ"。
この場にいる男女の未来の暗示のように、その女の登場で、運命が歪みだす。
さて、誰が苦しむことになるのだろう?
次回3月10日更新予定。
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