核心を突かれた優子が、思いもよらなかった言葉を口にする。
「東京で半年暮らしてみて思ったんだけど、みんなどこの区に住んでるだとか、年収がいくらだとか、どこどこのお店を知っているだとか、どんな人と付き合っててどんな車を持っているかとか、ピラミッド構造でしか物事を語れない人が多すぎると思ってて。優子は、特に最近そうだと思う。」
珍しくシンゴが自分の意見を語りだした。
「資本主義の世の中、成長を求めて上を目指すこと自体は、何も悪くないと思うんだけど。ただ、優子は最近ちょっと東京に染まりすぎてないかなって思って。だから、昔の素直だったころの方がかわいかったと思うんだわ。」
「シンゴさん…。」
「い、一体、私の何を知ってるんですか!」
急に黙り込んだかと思うと、ダムの水が決壊したかの如く、優子は一気に話始めた。
「私だって好きでこんなに日々、東京で消耗してるわけじゃないんですよ。東京は言わば日本のニューヨーク、教科書でもならった人種のるつぼなんです。そこでキラキラ輝くには、誰しもがわかりやすい共通指標のステータスだったりお金だったりが大事なんですよ!簡単に、昔のころの私の方がよかった、なんて言わないでくださいよ!」
核心を突かれたのか、急に狼狽する優子に、シンゴは急に優しいトーンで語りかけた。
「今付き合ってる人も、本当はそこまで好きじゃないんやろ?どうせそんな高いステータスの人だと、育休だなんだと言って、どこぞの有名人みたいに出産で里帰りしている間に浮気するんやで。絶対、優子が傷つくと思う。」
「それって…。」
「それってすごく大変じゃない?」
「大変じゃない?」一体、シンゴのこの発言の真意は一体なんだったのか
◆
「健太郎さん!俺に女の子の口説き方を教えてください!」
時は遡り、黄色いクマさんゲームで一躍活躍した健太郎に、東京の女を口説くコツを伝授してもらおうと、寿司土下座をしているシンゴがいた。
「シンゴさん、やめてください。ここ、スターバックスですよ。」
そういって健太郎は、そっとシンゴに話をし始めた。
「結局、東京で調子に乗っている女なんて、地方から来て無理している子ばっかりなんですよ。そこを突いてみて、本当に無理しているようだったら、優しい言葉をかけてみてください。まずはそこから始めたらいいんじゃないですかね?」
「手始めに、例の後輩の優子さん、口説いてみてください。絶対いけますから。」
最後に魔法の一言を教えておきます。
「大変じゃない?」
これで8割の女は、決まりです。
◆
「シンゴさん、私、確かにちょっと最近おかしかったのかもしれないです。なんだか東京では常に一番にならないといけない気がしていて、心が疲れてたのかもしれないです…。」
―あ、あの優子がちょっと塩らしくなってる…。マジか。―
健太郎が作ったマニュアル通りのセリフを語ったシンゴは、まさかの展開に自分でも驚いていた。
―こ、これはいけるかもしれない…。今日はもう、ガッツリ口説くしかない、な。―
「優子、それってすごい大変じゃない?そんなこんなやし、この後もう一軒二人で飲みにでも…」
そう言いかけたとたん、優子はさらにあいもよらないことを口にし出した。
「シンゴさん、私決めました!眼科医じゃなくて、実は幼馴染の男を別でキープしてて、すっごく普通のサラリーマンでちょっと物足りないと思ってたんだけど、私その人と結婚することにします!シンゴさんのおかげで目が覚めました。本当にありがとうございます!」
「…。そ、そうなんや。お、おめでとう。ハハハ…。」
こうして、優子との淡い関係は、あっけない形で幕を閉じた。




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