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東京DINKS Vol.9

東京DINKS:男の心を探るべく、臨戦態勢に入った女たちの焦燥と暴走…!?

※本記事は、2016年に公開された記事の再掲です。当時の空気感も含めて、お楽しみください。

前回までのあらすじ

結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない暮らしに満足している2人。

夫・太一の浮気に勘づいた愛子は、6年振りに偶然再会した昔の恋人・寛に会い、そのまま一夜を共にしたい欲望にかられるが、何もなく終電で帰った。太一は愛子との離婚は考えられないと言いながら、葵との浮気をだらだらと続けている。

葵は会社で憧れの先輩・寛が愛子と一緒にいる所を偶然目撃したが、愛子が太一の妻であることも、愛子と寛の関係もまだ知らないが……。

東京DINKS第8話: 遊びの恋を本気にさせた言葉、どうしようもない嫉妬が始まった夜

太一が出張で不在の金曜日、愛子は寛に「もう一度会いたい」と連絡し、食事に誘っていた。

先日の寛とのデートは、愛子にとって消化不良だった。寛はきっとまだ自分に、僅かな想いを残していると傲慢な自信を持っていたが、食事してホテルのバーに行ったにも拘わらず、じゃあねとさらりと別れたことで、愛子は寛のことを気にせずにはいられなかった。

ホテルの部屋へ誘われて、断るべきか逡巡する自分をイメージしていた愛子にとって、あの夜のあっけなさは愛子を焦燥の海に投げ出したようだった。

久しぶりに会った自分は寛をがっかりさせてしまったのか、自分は色褪せてしまったのか、そんな思いが愛子の中で日ごとに色濃くなっていた。

そのせいもあり、今日の愛子は勝負アイテムのオンパレードだった。ダイアンフォンファステンバーグの、胸元が大きく開いたチェーンプリントのラップワンピース、その下にはラペルラの黒いレースの下着をつけ、ルブタンの黒の9cmヒールを履き、ヌーディなマットベージュに塗られた爪は上品に艶々と光っている。ミューラグジャスのボディクリームも、会社の化粧室でたっぷり塗りこんで来た。

何が起ってもいいように、むしろ起こるべき今夜の出来事に向けて、臨戦態勢をがっちり固め、今日を迎えたのだ。

寛が行きたいと言った目黒のフレンチに先に着いたのは愛子だった。カウンターの一番奥に通され、シャンパンを頼んで寛を待つ。シャンパンを飲みながら、美人シェフがテキパキと動く様に見とれていると、程なく寛が現れた。

寛はすぐに愛子に気がつくと、右手を軽く上げた。笑顔を向けながら愛子の横にやってくると、コートを預けて愛子の左側に座る。

乾杯し、最近の寒さの話やお互いの仕事の話を軽く終えると、少しの沈黙が訪れた。2人の6年間の空白は、前回会った時に十分埋めてしまったようだ。共通の友人たちの近況も、一緒に通っていたレストランの話も、別れた後のお互いの恋愛話も、すでに一通り済ませてしまっていた。

新しい話題を探さなければならないことに、愛子は少しの寂しさを感じた。付き合っていた頃は、話したいことが次から次に出てきたし、沈黙に怯えることはなかった。


なんとか話題を探し、アルコールにも助けられながら、気づけばあっという間に時間は過ぎた。待ち合わせが遅かったこともあり、もう23時をとっくに過ぎていた。

腕時計を見て「遅くなっちゃたな」と今回はバーにも行かず、このまま解散しようとする寛に「もっと一緒にいたい」と言ったのは愛子だった。

少し困った顔をした寛は、「本当に?」と2回愛子に確認を取った。2回とも愛子は、コクリと首を縦に振るだけで、言葉は発しなかった。何かを訴えるように、そして命令するように愛子の瞳は、ただ潤んでいた。

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国内で360万世帯いるといわれる、意識的に子どもを作らない共働きの夫婦、DINKS(=Double Income No Kids)。東京のDINKSの生態を描いていきます。

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