東京DINKS Vol.9

東京DINKS:男の心を探るべく、臨戦態勢に入った女たちの焦燥と暴走…!?

前回までのあらすじ

結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない暮らしに満足している2人。

夫・太一の浮気に勘づいた愛子は、6年振りに偶然再会した昔の恋人・寛に会い、そのまま一夜を共にしたい欲望にかられるが、何もなく終電で帰った。太一は愛子との離婚は考えられないと言いながら、葵との浮気をだらだらと続けている。

葵は会社で憧れの先輩・寛が愛子と一緒にいる所を偶然目撃したが、愛子が太一の妻であることも、愛子と寛の関係もまだ知らないが……。

東京DINKS第8話: 遊びの恋を本気にさせた言葉、どうしようもない嫉妬が始まった夜

太一が出張で不在の金曜日、愛子は寛に「もう一度会いたい」と連絡し、食事に誘っていた。

先日の寛とのデートは、愛子にとって消化不良だった。寛はきっとまだ自分に、僅かな想いを残していると傲慢な自信を持っていたが、食事してホテルのバーに行ったにも拘わらず、じゃあねとさらりと別れたことで、愛子は寛のことを気にせずにはいられなかった。

ホテルの部屋へ誘われて、断るべきか逡巡する自分をイメージしていた愛子にとって、あの夜のあっけなさは愛子を焦燥の海に投げ出したようだった。

久しぶりに会った自分は寛をがっかりさせてしまったのか、自分は色褪せてしまったのか、そんな思いが愛子の中で日ごとに色濃くなっていた。

そのせいもあり、今日の愛子は勝負アイテムのオンパレードだった。ダイアンフォンファステンバーグの、胸元が大きく開いたチェーンプリントのラップワンピース、その下にはラペルラの黒いレースの下着をつけ、ルブタンの黒の9cmヒールを履き、ヌーディなマットベージュに塗られた爪は上品に艶々と光っている。ミューラグジャスのボディクリームも、会社の化粧室でたっぷり塗りこんで来た。

何が起ってもいいように、むしろ起こるべき今夜の出来事に向けて、臨戦態勢をがっちり固め、今日を迎えたのだ。

寛が行きたいと言った目黒の『モルソー』に先に着いたのは愛子だった。カウンターの一番奥に通され、シャンパンを頼んで寛を待つ。シャンパンを飲みながら、美人シェフがテキパキと動く様に見とれていると、程なく寛が現れた。

寛はすぐに愛子に気がつくと、右手を軽く上げた。笑顔を向けながら愛子の横にやってくると、コートを預けて愛子の左側に座る。

乾杯し、最近の寒さの話やお互いの仕事の話を軽く終えると、少しの沈黙が訪れた。2人の6年間の空白は、前回会った時に十分埋めてしまったようだ。共通の友人たちの近況も、一緒に通っていたレストランの話も、別れた後のお互いの恋愛話も、すでに一通り済ませてしまっていた。

新しい話題を探さなければならないことに、愛子は少しの寂しさを感じた。付き合っていた頃は、話したいことが次から次に出てきたし、沈黙に怯えることはなかった。


なんとか話題を探し、アルコールにも助けられながら、気づけばあっという間に時間は過ぎた。待ち合わせが遅かったこともあり、もう23時をとっくに過ぎていた。

腕時計を見て「遅くなっちゃたな」と今回はバーにも行かず、このまま解散しようとする寛に「もっと一緒にいたい」と言ったのは愛子だった。

少し困った顔をした寛は、「本当に?」と2回愛子に確認を取った。2回とも愛子は、コクリと首を縦に振るだけで、言葉は発しなかった。何かを訴えるように、そして命令するように愛子の瞳は、ただ潤んでいた。

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