東京DINKS Vol.8

東京DINKS:遊びの恋を本気にさせた言葉、どうしようもない嫉妬が始まった夜

前回までのあらすじ

結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない暮らしに満足している2人。

夫・太一の浮気に勘づいた愛子は、6年振りに偶然再会した昔の恋人・寛に会うことを決意した。レストランで寛と過ごしている内に、愛子はこのまま寛と一夜を共にしたい欲望にかられるが、何もなく終電で帰った。

太一は愛子との離婚は考えられないと言いながら、葵との浮気をだらだらと続けているが……?

東京DINKS第7話:「負け犬」の呪縛から解放された女たちが、手に入れたものとは…

「タクシーもすぐつかまる 目指すは君っ」

まだ小学生だった頃に流行っていた、宇多田ヒカルの『traveling』のワンフレーズが葵の頭の中で響いた。この曲は、金曜日の葵のテーマソングでもある。

ータクシーじゃなくてバスだけどねー

そう思いながら、葵は会社を出て、アークヒルズから渋谷行きのバスに乗り六本木ヒルズへ向かった。葵は時間に余裕がある時は、バスでの移動を選ぶ。

地中に張り巡らされた筒の中を走る地下鉄からは、当たり前だが外の景色を見ることはできない。JRは外を走っているが、都心ではどこも、ビルの2〜3階くらいの高さを走るため、見慣れた風景が流れていくのを眺めるのには飽きていた。だがバスだと、通りを歩く人がよく見えるから飽きないのだ。特に今、葵が乗ったバスが走っている六本木通りは、色んな意味で目を引く人が多い。

丈の長いコートをなびかせ颯爽と歩く背の高い女性、レストランの看板を出して開店準備をするギャルソン姿のイケメン、周りをキョロキョロ見ながら耳に当てた携帯電話に向かって喋る黒人男性など、六本木らしい雑多な風景が次々に目に飛び込んでくる。

246や明治通り、甲州街道とは違う、ちょっと異質な雰囲気が六本木通りには漂い、似て非なる人々がいることを感じる。街によってガラリと変わる雰囲気を自分の目で確かめられるから、葵はバスが好きなのだ。

今日は太一のたっての希望で『スター・ウォーズ フォースの覚醒』を観る約束をしていた。葵はスター・ウォーズシリーズを1作も観たことがなく、映画には乗り気でなかったが、救いは六本木ヒルズTOHOシネマズのポップコーンが美味しいことだった。どの映画館よりも、ここのポップコーンが東京で一番美味しいと葵は確信している。


葵には大晦日の夜に飲み会で知り合い、いい感じになった男がいた。2度デートをしたが、連れて行かれた店がどれもイマイチだったこともあり、葵のテンションは上がらなかった。

太一には本気にならない自信があった葵だが、イマイチな男と会う度に太一の評価は上がっていた。太一のことをどうしようもない男と思う反面、最近は家に泊まって行く回数が減り、寂しさから太一や、見たこともない太一の妻に対する嫉妬が少しずつ募っていた。


六本木ヒルズでバスを降りた後、2階へ上がり大きなオブジェを横目に映画館がある方へ向かった。

待ち合わせの時間までまだ少しあることを腕時計で確認し、エストネーションに入った。雑貨や化粧品を見て回り、奥の洋服が並ぶ方へ足を伸ばそうとした時、太一からの着信がきた。

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