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東京DINKS Vol.7

東京DINKS:「負け犬」の呪縛から解放された女たちが、手に入れたものとは…

※本記事は、2016年に公開された記事の再掲です。当時の空気感も含めて、お楽しみください。

前回までのあらすじ

結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない暮らしに満足している2人。

夫・太一の浮気に勘づいた愛子は、6年振りに偶然再会した昔の恋人・寛に会うことを決意した。レストランで寛と過ごしている内に、愛子はこのまま寛と一夜を共にしたい欲望にかられた…。

東京DINKS第6話:元カレを前に、薬指を隠す女の心は後悔か欲望か


「太一くんの浮気疑惑、その後何か進展はあったの?」

乾杯のシャンパンを喉に流し込んで早速、恵が切り出した。

日曜日の午後、愛子と恵は駒沢にある明日香のマンションで持ち寄りパーティを開いていた。愛子が持ってきた西麻布いなりや『呼きつね』のいなり寿司に、恵が持ってきた『新世界グリル梵』のビーフヘレカツサンドや、明日香が準備していた日本酒など、テーブルの上にはそれぞれの好きなものが節操なく並んでいる。

「何もないよ。それどころじゃないって言うか…。実は先週、寛に会ったの。2人で食事してその後グランドハイアットの『マデュロ』に行った。」

「え!ホテルのバーに行ったらもう、ポケットから鍵を出されるパターンね。で、それから?」
恵が鼻の穴を膨らまし気味に聞いてくる。

「何も。…帰った。終電で。」
ぼそりと返した愛子の言葉に、恵はがっかりし、明日香はほっとしたようだ。

「正直私も鍵が出されるんだろうなって思ったよ。でも、2杯目を飲み終える頃、この後仕事絡みの飲み会に顔出さないといけないんだ、なんて言われてさぁ。」

「何それ。男の家に泊まっといて何かされそうになったら、私そんなつもりじゃなかったのに、なんて泣き出す女みたいじゃない。」

「恵、その例え微妙。でもなんだか寛さんらしいね。」
そう言って明日香は笑った。

「でも、太一の浮気疑惑でヤケになってる所があるのかもしれないから、何もなくて良かったなって、今は思ってる。でも次にまた会ったら、今度は私から誘っちゃうかも。」寛と何かが起こることを期待していた自分を恥じながらも、愛子はそう付け足した。

「太一の浮気疑惑は気になってるけど、思ってたよりダメージは少ないって言うか、それよりも結婚ってものがわかんなくなってきちゃった。」愛子は、明日香がIKEAで買ったという花の刺繍が施されたクッションをぎゅっと抱え込みながら言った。


明日香の家は、IKEA港北店の2階の一画から切り取ってきたかのように、IKEAで溢れている。クッションカバーにカーテン、ソファ、ダイニングセットにテレビボード、照明と、ほぼ全てがIKEAのものだ。

「マンションを買うのに精一杯で、今は家具にお金かけられなくて、とりあえずIKEAで揃えちゃった。でもこの椅子、頑張って組み立てたのになんか斜めになるんだよね。」そう言って笑っていた明日香たち夫婦。家具にはこだわる愛子と恵だが、夫婦で大きな買い物をし、何十年というローンを払いながらこの場所に根を張ることを決めた友人が、とても眩しく見えたことを愛子は思い出した。


「急にどうしたのよ。でも、結婚ね。思うに当時話題になった『負け犬の遠吠え』は我々世代に恐怖を植え付けたよね。30歳までに結婚しないと『負け犬』呼ばわりされるって。」恵が食べるの止め、腕組みしながら話し始めた。

「わかる!なんとしてでも20代のうちに結婚しなきゃと思ったもん。」明日香が激しく首を縦に振りながら同調する。

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国内で360万世帯いるといわれる、意識的に子どもを作らない共働きの夫婦、DINKS(=Double Income No Kids)。東京のDINKSの生態を描いていきます。

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