崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.3

崖っぷちアラサー奮闘記:銀座☆夜の蝶デビュー初日レポ!イジメは、更衣室の奥で……!

前回までのあらすじ

北岡涼子、30歳、元女優。社会人経験なし、資格なし、貯金なし。しかも若かりし頃、ヘタに芸能界で活躍し「綺麗」以外の特性がないため、続々と不採用通知を受け取る。

そんななか大先輩の小田につれられて足を踏み入れた、銀座の超高級クラブ『銀華』の由紀ママにひょんなことから店にスカウトされる。

逡巡する涼子、その場では「考えさせてください」といって帰宅したものの、次の日の早朝、父親が倒れたという連絡が入る。

第1話:崖っぷちアラサー奮闘記:芸能界から捨てられた女の「これが私の生きる道」

第2話:崖っぷちアラサー奮闘記:とことん堕ちた女優の憂き目……そのとき彼女は?!

 涼子の父は脳梗塞で病院へ運ばれたが幸い、軽度と診断された。母が朝、いつものように食卓についた父に「おはよう」と声をかけたが返事がない。言葉が出てこないことに父本人がとまどった表情をしたうえに、湯呑み茶碗を突然、右手から取りこぼした。その、日常とは異なる些細な異変を察知した母の観察力が、早期発見につながり軽度ですませたのだった。

 だが、脳梗塞が再発率の高い病であることは、医学に明るくない涼子でも知っている事実である。さる大物タレントも、50代で二度目の再発に見舞われたではないか。すぐ意識を取り戻した父も、その報道を思い出したようである。憔悴しきった顔と、以前より小さくなったように見える身体に、涼子はかける言葉を失った。

 医師から言われた「再発に怯えて、心の病気に罹ってしまう患者さんもいらっしゃるので、ご家族は心のケアを忘れないでください」というアドバイスも重なり、涼子は静岡弁に戻りつつ、こう伝えるのが精一杯だった。

「うちがついてるから。なにも心配しないで、とりあえずいまは、元気になることだけを考えて」

 そして、父に見つからないよう、母を病室の外に呼び出し、とりあえずの資金として10万円を手渡した。

「物入りになるだろうからこれ、使って」

 現金が入った封筒を見て、母が涼子を気遣う。

「だって涼子、あんたは女優を辞めたんだから収入が……」

 母の手に封筒を握らせ、涼子は務めて明るく言った。

「うちもう、東京で仕事始めたの。大きな商社でOLしてる。手取りで30万円ももらってるし、ボーナスだってもらえるし。だもんで心配せんでもいいよ。お金、また送るからさ」

 この10万円は、クレジットカードでキャッシングした現金だったが、生活設計せずに借金へ手を出したわけではなかった。

 就職が決まらない自分にはもう、仕事を選ぶ権利はない。

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