崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.2

崖っぷちアラサー奮闘記:とことん堕ちた女優の憂き目……そのとき彼女は?!

前回までのあらすじ

北岡涼子、30歳、元女優。一般企業に就職した社会人経験なし、資格なし。しかも若かりし頃、ヘタに芸能界で活躍し「綺麗」以外の特性がないため、仕事を探そうにも続々と不採用通知を受け取る。

そんななか大先輩の小田島につれられて足を踏み入れた銀座のクラブで……?

第1話:崖っぷちアラサー奮闘記:芸能界から捨てられた女の「これが私の生きる道」

 由紀ママのスカウトに涼子が答えあぐねていると、由紀ママがまた、涼子を見つめながら、誘いの言葉を重ねた。

「ねえ涼子さん。ここで働くこと、真剣に考えていただけないかしら?」

 涼子が芸能界にいたころ、兄として慕っていた先輩俳優、小田の横に座っているヘルプが、水割りを作りながら目を丸くして話に割り込む。

「ママ、本気ですか!?」

「本気よ。涼子さんのように人気が出そうな子はすぐ声をかけないと、ほかのお店に盗られてしまうもの。今夜、小田さんが連れて来てくださってよかったわ。小田さんへの感謝のしるしにわたし、特別にもう1杯だけ、いただこうかしら」

 小田がその言葉に、「なんで涼子ちゃんを連れて来たからって、由紀ママがもう1杯飲むんだよ」と、笑いながらも新たな酒が運ばれてくることを拒まない場に居合わせながらも、涼子は別世界の出来事のようにそれらを眺めている。

 女優を引退して1年あまり経つのに、就職すらできず無職の自分がいま、生活費に困窮していることは、逃れられない現実だ。だが、もう華やかな世界に身は置くことは避けたいと、事務職ばかりに履歴書を懲りずに送り続けたではないか。

 その思いを、涼子は言葉を選びつつ由紀ママへ伝えた。

「あの、わたし、こういうきらびやかなお仕事に就くことは考えていないんです……」

 唇を湿らすほどの少量のブランデーをこくりと飲んでから、由紀ママが涼子へにこやかに応じる。

「あら、そうなの? わたしの見立てでは涼子さん、このお仕事に向いてるはずよ。あふれんばかりに華がおありだから、地味なお仕事だと返って悪目立ちして、居心地が悪いんじゃないかしら」

 これまでの就職活動を見透かされているみたい――。

 涼子は内心、どきりとした。他人からほめられる経験も久しぶりなので、正直うれしくもあったが、自分は、芸能界の“椅子取りゲーム”の脱落者だ。女優として否定された事実に苦しんできた涼子は、女としての自信も粉々に打ち砕かれていた。

「わたしに務まるかどうか、自信がありません。それに、こうしたお仕事は経験がありませんし……」

 ころころと上品な笑い声を立てたあと、なおも由紀ママは涼子を口説く。

「20年以上銀座にいる、わたしの人の見る目を信じてみてくださらない? それに、最初は誰でも初心者よ」

 2人の会話に、小田が唸りながら言葉を差し挟む。

「う~ん……確かに由紀ママは、人を見る目はずば抜けてるんだよなぁ。ほら、つい最近までいたあのチーママだって……」

 小田の話によれば、この店にいた美樹というチーママが、他店からママになることを条件にスカウトされたという。雇われの身ではあるが、銀座の水に長く浸かったホステスにとって、ママはもっとも憧れるポジションである。しかも、『銀華』よりも破格の高待遇を約束され、美樹はすぐさまその話に飛びついた。

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