やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜 Vol.13

やまとなでしこ2015 本命からのプレ・プロポーズ!そのとき、桜子は何を思う?

前回までのあらすじ

27歳の桜子は「(並みの)結婚をした女は負け犬」と考え、持ち前の美貌と教養とセンスで「極上の結婚」を狙っている。某企業の次期社長のポジションにいる交際相手・隆弘を手堅く押さえつつ、更なる高みを目指す。弁護士の長田とのデート時代の寵児・若き起業家の国分とのデートの二戦では思うような戦果が得られず、停滞気味の桜子。そんな中、「司」から、LINEが届く。司の名前を見て、動揺を隠せない桜子だが、司とは一体・・・?

前回:前回:行き遅れに怯える「浦島太郎恐怖症」の女たち

正直動揺していた。

美穂や、香織には強気で言ったものの帰り道、司からのLINEを既読にできなかった。

一人になるのが怖くて、隆弘の広尾のマンションに寄る。

「どうしたの。突然来るなんて珍しいね。何かあった?」

一人でワインを飲んでいたらしい隆弘は、カシウェアのパーカーにショートパンツで快く出迎えてくれた。
ううん、と首を振り隆弘の懐に顔を埋めるとダウニーの甘い香りがふんわりと鼻をかすめる。

清潔で、誠実で、豊かな、隆弘らしい香りだ。

隆弘の飲んでいたワインを飲む。出来の良い2005年もののブルゴーニュ。ピカピカに磨かれたロブマイヤーのバレリーナグラスの柄は糸のように細い。ワインクーラーには、桜子が好きだと言ったアンリ・ジローのシャンパンが常時ストックされている。

隅々まで行き届いた丁寧な生活は、潤沢な経済力に裏付けされたものであり、厳選された品の良い調度品は、近い将来の豊かさを約束する鍵のように、桜子の心を満たしてくれた。


ふとダイニングテーブルに重ねてある、紙の束に目が止まった。ティファニー、ハリー・ウィンストン、ヴァン クリーフ&アーペル、カルティエなど・・・ジュエリーブランドの婚約指輪のカタログだった。

桜子の視線に気付いた隆弘がカタログの束を不自然に整理する。一瞬の沈黙の後、隆弘は早口で説明する。

「これは、大した意味はなくて・・・ただの下調べというか、来るべきときのためにちゃんと下準備をしておかないと、と思っただけで・・・」

生真面目な隆弘は、仕事においても下準備や事前調査に余念がなかった。その実直さが身を結び上司やクライアントからの信頼も厚くここまで上り詰めてきた男だ。婚約指輪にしても、下準備を始めたということは、そう遠くない未来に「その日」が迫っているということだ。

桜子は、無言だ。今にも泣き出しそうな顔をしている。嬉しいのか、悲しいのかは桜子自身もわからない。


隆弘は、その表情を見て、腹を決めたように桜子に言った。

「桜子。ちゃんと俺、考えてるから。」

家に帰りベッドに入ってからも、心が波打っているようにざわざわする。
先ほどの隆弘の言葉が頭の中でリフレインしている。すぐそこまで、決断すべき未来が近付いていることは確かだった。

最後の最後まで極上の結婚相手探しに奔走すると言っているものの、隆弘はひとまずのアガリのカードとしては、上出来だ。安定した地盤があってこそ、走れるというもの。この地盤が沈下したら、桜子のこの余裕と平穏は保てない。

—それなのに・・・・・—

携帯に視線を落とすと、LINEのアイコンにまとわり付く赤いポップアップ。
司からのLINEは未読のままだ。
赤色がここまで人の視線と心を奪うとは、信号機の発明家は考えたものだ。目をつぶると、まぶたの裏に司との記憶が鮮明に映し出される。


先ほどの福音のような甘い隆弘のプレ・プロポーズよりも、司からのLINEのメッセージの方が気になって仕方がないとはどうしたことだ。

【やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ