やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜 Vol.9

やまとなでしこ2015 まさかの形勢逆転・・・百戦錬磨の桜子危うし。

前回までのあらすじ


27歳の桜子は「(並みの)結婚をした女は負け犬」と考え、持ち前の美貌と教養とセンスで「極上の結婚」を狙っている。某企業の次期社長のポジションにいる交際相手・隆弘を手堅く押さえつつ、更なる高みを目指し参加した食事会で、メディアに引っ張りだこの若き経営者・国分与一とデートの約束をする。そして、また別の日に、弁護士のパートナーである長田からレストランでナンパされ食事の約束をするなど、女としての最高値27歳を最大限利用して、極上の結婚相手探しに奔走する桜子だが・・

来るべきXデーに備え、女を磨く桜子の前に現れた男。

「桜子、いい加減やめた方がいいわよ。バチがあたるわよ。」

「いくら桜子でも、隆弘さんに、国分さん、それに加えてナンパ男の弁護士なんて風呂敷広げすぎよ。悪いことは言わないからそろそろ手を打ちなさい。」

ランチタイム、『BVLGARI Il bar』で声をかけられた男の話を告げるやいなや、案の定、香織と美穂から大ブーイングを喰らった。

桜子は、二人のけたたましい声を馬耳東風と聞き流し、新橋の老舗鶏割烹『末げん』の名物丼「かま定食」を掻き込む。軍鶏、地養鶏、合鴨の3種類を丁寧に2度挽きし、それを割り下でさっと煮た後、卵でとじた親子丼は、新橋で働くサラリーマンのファンが多い。上品な味付けと半熟の卵を纏った挽き肉は、とろとろで、咀嚼せずとも、滑るように喉を通る優しい食感がなんとも心地よい。

テクノロジーが進化した現代においてでさえ、自分の半径5m以内の人脈からの出会いでなければ信用しない女性も多い。しかし、そんな狭い領土から取れる作物などたかが知れている。桜子は、よく見知ったエリート男も、旅先で偶然見かけた白馬のプリンスも、地球の反対側にいるまだ見ぬ石油王も、この世に生けとし生けるすべての男性との出会いを公正に、そして同じ基準でジャッジしたいと考えている。

来月9月に桜子は28の誕生日を迎える。あのドラマの主人公が言っていた、女としての値崩れが始まる年だ。桜子はぶるっと背筋を震わせた。

「忠告ありがたく頂戴するわ。だけど、最高値27歳のうちに、女としての時価総額をギリギリまで高めて売り抜けなきゃいけないんだから、うまくやるわよ。」

丼を左手で持ち上げると、桜子は一粒残らずごはんを掻き込んだ。





その夜、弁護士の長田は、汐留にあるホテル、コンラッド東京のモダンフレンチ『コラージュ』を指定していた。汐留に勤めている桜子を気遣いの選定だった。

すでに到着していた長田は桜子を見るなり、舐め回すような視線を全身に滑らせる。

「今日のファッションも素敵だね。桜子ちゃんは本当にスタイルがいい。」

不躾なその視線を浴びながら、桜子は笑顔で応じ乾杯をした。
すっと視線を落とした長田の腕に巻かれたのは、フランクミュラーのクレイジーアワーズ。数字がバラバラに配置されたその時計には、有限な時間の中でも、人生の選択を自分自身で能動的に決めることでより良く生きられるように、との願いが込められていると聞いたことがある。
何かの暗示のようなその時計盤のちぐはぐな数字を見つめながら桜子は、雑念を振り払うように会話に傾倒した。

長田は、少し前に手がけたプロジェクトの武勇伝を高らかに謳い上げる。男の武勇伝は、年収査定の格好の身上書だ。嫌悪感を示す女も多いが、ここはニコニコと聞きながら冷静に男の今後のポテンシャルのそろばんをはじくのが正解だろう。

なかなかの好物件だと目星をつけた桜子は、いつもの常套句で追い込みをかける。

「長田さん、次白のボトル何か頼んでもいいですか?」

ボトルが運ばれてくるとウエイターを制して、桜子は、自らボトルを手に取る。そして、長田にワインを注ぎながら上目遣いに長田の目をしっかりと捉えて一言呟く。

「今夜は、たった一人の人に出会えた気がします。」

そして、次の瞬間桜子は意図的に手を滑らせ、ワインが長田のシャツの袖にこぼした。桜子は、あっと、大きな声を出し、慌てたふりをしてバッグからハンカチを取り出す。濡れた袖口をふき、もう片方の手で長田の手をぎゅっと握った。

「私どうしたのかしら。長田さんのとても良いワイシャツを汚しちゃって・・・本当ごめんなさい。さ、タクシーに乗ってください。うちにある着替えお貸ししますわ。」

いつものペースでタクシーへと誘導しようとした桜子に対して、長田は、一瞬うろたえたものの「いいんだ。それには及ばないよ。」とすぐに笑顔になり、桜子の手をぎゅっと強い力で握り返した。

想定外に強い手の力に、桜子は身構える。女としての本能が警鐘を鳴らしている気がした。
長田は、にっこりとした笑顔とは対照的な強い力で桜子の手を引っ張ると、立ち上がった桜子をソファーへと戻した。そして、ぐっと距離を縮めて桜子を隣へと引き寄せると耳元でそっと囁いた。

「着替えはホテルの部屋にあるから大丈夫だよ。一緒に行ってくれるかな?」

想定外の展開に桜子は、ランチタイムの美穂と香織の言葉がフラッシュバックした。


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