元々YUMEのことを手放すつもりはなかったのだろうが、弁護士の名前がかなり効いたようだった。おかげで二の手、三の手と準備していたカードを切らずに済んだことに、ともみは密かに安堵する。
その場でお互いの弁護士同士をつなぐことになったが、その前に、まずはこちらの希望の条件を、と佐藤が作ってくれた要望書を真壁に差し出した。
「…あら。これくらいでいいの?」
真壁は意外そうに眉を上げ、すぐに満足気に口元を緩めた。
「もちろんこちらの権利も主張させていただきますが、今回、再デビューとはいえYUMEは新人です。まずはそちらが7、こちらが3ということで始めさせていただければ。ただし売り上げの明細提示と、定期的な契約見直しは条件に組み込ませていただきます」
「……この内容なら弁護士に見せなくても私で判断できそうだけど」
真壁は尖った爪で提案書を弾いた。
「こんなに細かく警戒しなくても、うちはクリーンもクリーン、ホワイト経営で有名なんだから」
並んで座るYUMEの体が強張る。ともみはその膝の上に置かれた手を何気なく握る。未成年に違法な美容整形を薦めた人間が、クリーンを語るとは。
「今は時代的にうるさいし、2人が所属してた頃に比べると色々改善してるからYUMEは安心して戻っておいで」
「…ありがとう…ございます」
YUMEがぎこちなく笑みを返す。“緊張している”と捉えてもらえる程度の表情は作れていた。
― YUMEを思い切り歌わせてあげたいし、今度こそ、夢を叶えてあげたい。
今回の目的は真壁と松本公子への復讐だ。計画の道筋はできている。が、真壁はとにかく勘が鋭い。YUMEのマネジメントをしながら、真壁の裏をかき騙し続けて計画を完遂することはかなり難しく、ともみ一人では苦戦を強いられるだろう。
そのうえ、光江には「TOUGH COOKIESもきっちり回しな」と念押しされている。
だからともみは、もう1人共犯者が欲しかった。頭が回るだけでは足りない。口が堅くて、少し性格が曲がっているくらいの人がいい。そう考えていたところで、思わぬ適任が既に現れていることに気がついた。






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