「当初は余命が1年ほどだと思われていました。でも思わぬ転移がみつかり…特にここ数か月の状態はすこぶる悪く、1か月程前に東京に行きたいと言われた時も許可を出しませんでした。先生が許してくれなかったなら、病院を脱走してでも行くと半ば脅されてしまって」
そんな明美の意志の固さに医師がしぶしぶ折れ、何かあった時には頼るようにと、東京の病院にいる知り合いの医師の連絡先を渡して送り出したのだという。
「つまり、東京に滞在していた間、いつ倒れてもおかしくない状態だったということですか?」
「その通りです」
ともみには信じられなかった。確かに明美は折れそうな程に細かったけれど、少しだけれど酒も飲んだし、まさか、そんな。
「痛みもかなりあったと思います」と静かに続けた医師の言葉にはいたわりがあったけれど、続く内容は事務的なものに変わった。ともみは明美の親族なのか、明美の最期に寄り添い、手続きをできる人はいるのか、など…それらに答えたあとともみは、なりふり構うのをやめ、すぐにルビーを呼び出した。そして。
「ルビー、私と一緒に明美さんのところに行くよ」
「え?」
「明美さん、もう…いついなくなるかわからないんだって。だから絶対、その前にもう一度会わなきゃダメ」
大きなため息と共に「なんであの人と連絡とってんの?」と呆れ、「そんな話なら帰る」と拒んだルビーにともみは、行かないのならTOUGH COOKIESを辞めてもらうし、絶縁するよ、と思いつく全ての脅しを並べたけれど。
「辞めさせるのなんて無理。私がいなくなって困るのはとも姉でしょ」とあっさりと見抜かれ、医師とのやり取りの全てを正直に伝えてもダメで、ならば最後の手段を、とともみは。
「じゃあ、ミチさんと私だけで行くけどいいのね?」
「…は?」
「病院の場所を調べたら車がないと困りそうだったから、仙台駅でレンタカーを借りてミチさんに運転を頼もうかと」
「大輝さんにしてよ」
「大輝は今、脚本の追い込みで動けないし。ミチさんに頼んでみる」
「ということは、まだ頼んでないってこと?」
「そう、まだ、ね。でもこの後すぐ頼むよ」
今思いついたのだから、頼んでいるわけがない。けれどともみもルビーもミチがこの手のお願いを断る人ではないと知っている。
「ルビーが行かないって言うんだったら仕方ない。でも私は行くから。せっかくミチさんと“2人”で行くんだし、お見舞いの帰りに“2人で”美味しいものとか食べてきちゃおうかな。あ、一泊してきてもいいかも。“2人”で、ね」
2人で、と強調するたびに頬が、口元がピクリと強張り続けるルビーに、あと一押しだとともみは携帯をとりだした。
「ミチさんに今LINEするね」
「…」
「宮城にいるルビーのお母さんのお見舞いに行くのですが、車が運転できる人が必要なので、ミチさん一緒に行ってもらうことは可能ですか?」
わざと声に出しながら文章を打ち込んでいき「ルビーは行かないらしいので、私と2人です。お礼にご飯をご馳走させて頂けたら」と送信しようとしたところで、「ああ、もう!!」と、ルビーに携帯を取り上げられた。
「ミチ兄には私から頼む。だからとも姉からは何も言わないで」
ともみはしたり顔でニヤリと笑い、念押しした。
TOUGH COOKIES
SUMI
港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが
その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。
そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。






この記事へのコメント
東カレに泣かされるとは…