港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:16歳で美容整形した少女。理想の顔を手に入れたはずが、人生を棒に振ることになった理由とは
「とも姉(ともねえ)!!」
ルビーの大声と同時に何かが砕ける音。自分が落としたグラスが割れたのだと気づく前にルビーに抱きとめられたともみは、自身が倒れかけたのだと認識するまで、少しの時間がかかった。
「…とも姉、って何…」
はじめての“ともねえ”呼びに思わず聞くと、ルビーは「この状況でそれが気になる?」と呆れながら、ともみを抱えたまま、客である松本公子に言った。
「申し訳ありませんが、店長をしばらく座らせてもよろしいでしょうか」
その声は有無を言わせぬほど冷たく、公子は気圧されたようにただ頷いた。
「大丈夫だよ、ごめん」
「大丈夫じゃない。顔、真っ白だし。足も力が入んないんでしょ?」
確かに、ぐわんぐわんと耳が鳴り、視界も回っている。よりにもよって公子の前で倒れるなんて。悔しく情けなかったが、状況を改善するには座るしかないと、公子に詫びをいれつつ、ルビーに支えられ、ともみは公子から一番離れた、カウンターの端の席に座った。
「…どうする?帰ってもらう?」
公子に聞こえぬように、ルビーが囁いた。その気遣う瞳に、「大丈夫、少しすれば落ちつくと思うし、それに…」と、ともみは、笑顔を作る。
「もう逃げたくない」
思いのほか掠れてしまった声は弱々しく、ルビーはさらに心配そうに眉を寄せたけれど、「わかった」と、ともみをきゅっと抱きしめた。その肩越しに公子と目が合う。
「そんなにショックを受けるとは思わなかったから…でも…」
言い訳しながらも話をやめる気がなさそうな公子を、ルビーが「少々お待ち頂けますか」と遮った。そして、ケトルでお湯を沸かしつつ、割れたガラスを手際よく片付けると、ともみのために丁寧にジャスミンティーを入れ、先ほどまでともみがいた位置…つまり、カウンターを挟んで公子の対面に立った。そして。
「店長――ともみさんはご覧の通り体調が優れませんので、座ったまま参加させて頂くことをお許しください。では、松本さま、お話の続きをどうぞ」






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