TOUGH COOKIES Vol.61

女性からのアプローチにうんざりしていた男が、最終的に彼女にドはまりしたワケ

SUMI

頂いた手土産のお礼を送らせて欲しいと、ともみは明美に入院先の病院を聞いた。もちろんそれも本心だったけれど、明美の居場所を知っておきたかった。なにかあった時のために…そう想像しただけでも居たたまれなくなるけれど、ルビーのためにも後悔するわけにはいかなかった。

ルビーには結局、まだ明美の病、そして余命宣告の話はできていない。明美が帰った翌朝、無事に宮城に戻ったようだということだけは伝えたけれど、ルビーはともみへの礼を短く口にしただけで、既に母親への興味は失ったかのように振る舞っていた。

― 私じゃなきゃ、できないこと。

あの日の帰り道、大輝の言葉はいつになく厳しくて、けんか…とまではいかずとも、付き合いだして初めて、大輝の前でカッとなってしまった。「大輝には才能があって、ずっと選ばれてきた側だから、そんなことが軽々しく言えるんだよ」と僻み全開の言いがかりをなんとか飲み込めたことだけは、自分を褒めたいところだけれど、それほどムキになったのは。

― 色々、図星過ぎたんだよなぁ。

目を背けてきたトラウマに触られ、暴かれた。

「私は、どうしたいのか」

声に出したその言葉が、ぷかりと宙に浮いた気がして、もう一度同じフレーズを呟く。

4年前、女帝に出会い惚れこみ、Sneetで働かせてもらうようになってからずっと、ともみの目標は“光江に認められること”だった。

そしてTOUGH COOKIESを任されると、少しは認められたのかもしれないと嬉しくて、尚更、光江に恥じぬ振る舞いを…という意識は強くなったと思う。それほどに、ともみにとって光江は、道しるべそのものだった。芸能界からドロップアウトした自分が、西麻布の女帝の元で人生を取り戻す。そんな野心のようなものが、ともみを突き動かしていたとも言える。

― それが、間違っていたとは思わない。…けど。

TOUGH COOKIESに立ち始めて以来、胸の奥のどこかに、切ないもどかしさが積り続けているのだ。

紗和子の復讐計画、ルビーと明美の愛ゆえの過ち。オープン以来、一人一人の客が話してくれたこと。裏切り、裏切られ、後悔にさいなまれて行き止まり、それでも諦めたくないと足掻く人達の、一言一言が蘇る。

『これからどうしたいの?どんな店にしたい?』

大輝の声をもう一度思い浮かべて、ともみはベッドルームに向かった。そしてバッグに入れていたカードケースから、名刺を一枚取り出す。それは。

『プロデューサー・松本公子』

先月突然Sneetに現れ、ミチに「ともみと連絡をとりたい」と名刺を渡して去った、映像制作会社のプロデューサー。アイドルとしてのともみの“才能を見つけた”大人のうちの1人。そしてアイドルグループの仲間だったYUMEの“才能を奪い”、見捨てた権力者。


その名を見るだけで喉元に不快感がこみ上げたことに、ともみは苦笑した。

― 紗和子さんのおかげ…とも言うべきかな。

諦めたふりをしていたけれど、私は許せなかったし、怒っていたのだ。それを思い出すことができたから。

リビングに戻ると、名刺をマグカップの横に置き、まずは深呼吸をした。そして記されていた携帯番号にショートメッセージを打ち込む。

『お久しぶりです、AN(あん)です。Sneetを訪ねられたと聞きました。私のお店でお会いできないでしょうか?』

一気に打ちこみ送信ボタンを押すと、コーヒーを口にする。冷え切ってしまい苦みが増していたけれど、これはこれで悪くないと思えた。

― 私は、どうしたいのか。

その答えは、TOUGH COOKIESと共にある気がして…ともみは決意の笑みを浮かべた。


▶前回:「フェロモン出てる?」全く眼中になかった男に迫られ、急に意識してしまった28歳女は…

▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱

▶NEXT:5月12日 火曜更新予定

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この記事へのコメント

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No Name
大輝の、ともみに対する気持ちがどんどん大きくなっているようで安心したけど、監督に潰されないようになんとか頑張って欲しい。
メンバーの才能を奪い見捨てた松本公子の目的は.... 来週まで待ちきれない🥹
2026/04/28 05:258
No Name
ともみをプロデューサーの道に誘うのかな、絶対断るだろうけど。松本さん側の言い訳と言うか懺悔があるのかねぇ。
2026/04/28 06:305

TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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