苛立ちが滲んだ顔を隠すように、ともみは大輝から視線を逸らした。珍しい…と思いながら大輝はうれしくなる。付き合い始めて3ヶ月が経っても、ともみが感情を露わにすることは珍しいし、それが負のものなら尚更だった。
「確かにそれはそう。その人達に太刀打ちできる力はない。まだ…今はね」
ともみがもう一度自分を見上げるのを待って、大輝は続けた。
「けどこの先、オレたちがそうならなければ、ゆっくりでも世界は変わっていくんじゃないかな。変わらざるを得ない、というかさ」
「…私たちが?」
「今ある世界の仕組みを引き継ぐ必要はないってこと。ルールごと変えるゲームチェンジャーを目指すというかさ。この街も、業界も、新しくしていく方法を考える方が楽しくない?」
「…そんなこと、簡単に…」
ともみは唇を噛みしめてうつむいた。その小さな頭の形さえかわいいと思ってしまうなんて重症だと思いながら、大輝は聞いた。
「できないと思う?だから諦めてるの?」
「…」
「このままずっと、許せないって愚痴って、イライラしてるだけ?」
「イライラって…そんな簡単な言葉で片づけて欲しくない」
大きな瞳に睨まれたけれど、大輝は構わず微笑みを返す。
「その怒りとか、痛みは――自分や…大切な人が搾取された経験があるからなんでしょ」
「…」
「だからこそ光江さんはTOUGH COOKIESをともみに任せたんじゃないかな。ともみじゃなきゃできないことを、あの店で実現して欲しい…って思ってる気がする」
顔を上げないともみの表情は見えない。けれど大輝の手を握る力が、ギュウッと痛いほどに強くなった。
「怒りも、痛みも知ってしまえば…知らなかった頃の自分には、もう戻れないよね」
「…」
「ともみはこれからどうしたいの?どんな店にしていきたい?」
「…」
「ほら、諦めたらそこで試合終了、だっけ?」
数年前の映画の大ヒットをきっかけに、ともみが――意外にもドハマりしたらしい人気漫画のセリフを投げかけてみたが、反応はなく、さらに遅くなり始めたその歩みに、大輝はそろそろタクシーに乗らない?と提案した。
◆
― 私じゃなきゃできないこと、って…。
2日前の夜、大輝と話して以来、ともみはずっと考えている。光江に相談してみたいともよぎったが、「それくらい自分で考えな!」の一喝が映像付きで想像できて、即やめた。
打ち合わせに出た大輝のいない、午前11時過ぎのリビング。今日はTOUGH COOKIESの休業日で、特に出かける予定も入れておらず、先ほど起きたばかりだ。
起床とともに、ルビーの母、明美に状況を尋ねるLINEを送ってからコーヒーを淹れた。なんとなくつけたテレビの情報番組から、今年も猛暑になりそうだというアナウンサーの声が流れてくる。
『ここ数日は体調も良く、食欲も少し戻りました。送ってもらったオレンジも頂けました、ありがとうございます』





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メンバーの才能を奪い見捨てた松本公子の目的は.... 来週まで待ちきれない🥹