港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「フェロモン出てる?」全く眼中になかった男に迫られ、急に意識してしまった28歳女は…
「…ミチさん…?」
「あ?」
「ともみに…なんかした?」
「するわけねえだろ」
氷を削りながらのミチの返答はあっさりとしたものだったが、ともみの視線がわずかに泳ぎ、その指先がグラスに食い込んだことに、大輝は気づいてしまった。けれど。
「......そ?」
それ以上は聞かず、ともみを不安にさせぬよう微笑みを作る。他者の感情の機微に気づきすぎる自分が、愛する女性なら尚更になってしまうのを分かっているから。
― 散々、フラれてきたからなぁ。
モテないとは言わない。ともみには伝えていないけれど、ともみと恋人になってからも何度も告白されている。けれど――いつまでも共にいたいと願う女性には最後にはいつも捨てられてしまう。だから恋の数だけ臆病になってきたというのに、それでもまた落ちてしまうのが恋で、自分の恋愛体質を恨むしかない…と、大輝はこっそりと苦笑いした。
◆
もう終電はない。2人が同棲している中目黒の自宅まではいつもならタクシーだけれど、ともみのリクエストにより、少し歩くことにした。雨上がりのアスファルトに街灯の白い光が滲み、梅雨が終わりかけた7月の湿気も25時が近付いた今はやわらいで、歩きやすい気温だ。
西麻布の交差点から外苑西通りに入ると、徐々に喧噪が遠くなっていく。手を繋ぎながら物思いにふけるともみに大輝も合わせ、会話は少ない。けれどそれは心地の良い沈黙で。
車の通りが消えた間は、水音を含んだ2人の足音だけが響き、この眠らない街が2人だけの世界になったような不思議で、大輝はともみに歩調を合わせながら、今、この瞬間を表わすなら、と、文章を思い浮かべたりもした。
「才能を見つけた、っていう言い方に抵抗があるんだよね」
ともみが呟いたのは、天現寺の歩道橋の上だった。
「自分が見つけたんだから、活かすのも潰すのも自分の意のままっていう、力を持つ大人たちの傲慢が嫌い。散々搾取したくせに、都合が悪くなれば簡単に捨てる。その子は才能の前に人間で…売れても売れなくても、人生は続いていくのに」
― 今日の客…業界の人だったのかな。
守秘義務がある店でのことを、ともみは絶対に話さない。けれどおそらく今日、TOUGH COOKIESを訪れた客にトラウマを刺激されたのだろうと想像はついた。アイドルを辞めた経緯が、苦いものであったことは大輝もなんとなく聞いていたから。
「そういう人は、これから先、消えていくと信じたいよね。今、明らかに変わりつつあるし、希望はあると思うけど」
パワハラやセクハラ、そして立場的弱者への搾取。ともみがいた芸能界や大輝が働く映像業界では長い間、いかに人間性が破綻していても、“才能至上主義”における理不尽が許されてきた。けれどそんな体質の古い業界でも、小さな変化は起きているはずだと、大輝はともみの小さな手を強く握りなおした。
「そうかな」と、ともみは大輝を見上げた。
「そう簡単には変わるとは思えない。権力者どうしで結託して、都合の悪い正義は握りつぶす。その力のある人達だよ?」





この記事へのコメント
メンバーの才能を奪い見捨てた松本公子の目的は.... 来週まで待ちきれない🥹