A1:自分のことで手一杯で、余裕がなかったから。
加奈と出会ったのは、友人の紹介だった。当時26歳だった加奈は、IT系の会社で営業をしており、ハキハキと話す感じが素敵だなと思った。
しかも加奈は可愛いだけではなく、しっかりと自分を持っている。そこもまた魅力的で、初対面の時から僕は彼女に強く惹かれていたように思う。
「加奈、付き合わない?ちゃんと大事にするから」
だから二度目で、僕は加奈に告白をした。
当時の僕はまだ27歳で、今から考えると青二才も甚だしく、未熟だったはず。それでも加奈は交際を申し込むと心底嬉しそうな笑顔を向けてくれて、僕たちはすぐに交際することになった。
ただ交際してすぐに、加奈から将来のことを聞かれ、僕は返答に困った。
「亮太、将来のこととか…考えてるよね?」
思わず言葉に詰まる。なぜなら、当時製薬会社でMRをしていた僕は信じられないくらいに忙しく、激務だったから。
それに加えて飲み会なども多くあり、心底疲れ果てていた。
― 結婚なんて、考えられないな…。
そう思った。
もちろん、加奈の存在の大きさは交際当初から気がついていた。彼女がいてくれるだけで安心できたし、心の支えになっている。それに、別れる気は更々ない。加奈のことは好きだし、大事にしたいと思っていた。
でも、結婚はその時は考えられなかった。
だからものすごく考えた結果、僕は本音を言うことにした。
「うーん…。加奈のことは好きだし大切だけど…。しばらく結婚はしないと思う。これは加奈がどうこうとかじゃなくて、僕が結婚に向いてなさそうだなと思っていて。だから“結婚は考えられない”、というのが正直なところかな」
一切、嘘はついていない。すべて真実だ。
だからだろうか。加奈はこれ以降、“結婚”について言及してこなかった。
ただ僕にとって、これがとても良かった。
正直、加奈と交際した当初は自分のことでいっぱいいっぱいで、他人のことを考えられる余裕なんてどこにもなかったからだ。
日々のタスクをこなすことに追われており、僕は周りが見えていなかったかもしれない。
それでも、何も言わずについてきてくれた加奈。
この、“余分なプレッシャーをかけずに待っている”状態だと、逆に申し訳ない気持ちにもなってくる。
― ちゃんと考えないといけないよな…。
そう思っていた。しかし実際は日々忙殺されて、それどころではなかった僕。
ただ、しばらくして転機が訪れることになる。
実は加奈と交際して1年が経った頃から、転職を考え始めた。今の会社にはお世話になったけれど、もっとステップアップしたい。それに新たな世界も、見てみたい。しかし今の給料を捨ててチャレンジする勇気もない…。
などとウジウジ悩んでいる時に、冗談で加奈に聞いてみたことがある。
「そろそろ転職したいんだよね…。今の会社は成長させてくれたけど、次のステップに行きたいなと思っていて。ただ、今より給料が下がるかもしれないし、上がるかもしれないし…まだ未知数だけど。もし僕が、無職になっても加奈は大丈夫?」
すると、加奈はあっけらかんと言い放った。
「もちろん。いざとなったら、私が養ってあげるよ」
「まじか。心強いな〜」
この一言で、どれほど救われただろうか。
結局この後、僕は転職することになった。







この記事へのコメント
余計な一文。結婚を更に “決意した” 理由が加奈の人間性ではなく「どこへ出しても恥ずかしくないとの対外的評価に繋がっている。結婚の判断が彼女自身の事ではなく他人からの評価を優先したように感じてしまう。