は?と、苛立ちを声にしたルビーがまたも爆発する前に、ともみは急いで、明美の質問の意図を理解せぬまま、その先を引き取る。
「その質問の答えは、実はYESです。今、まさにそんな恋を始めたばかり、だと思っています」
「ともみさん…?」
なぜまともに答えるのだと言わんばかりに、明美からともみに移ったルビーの苛立ちを、ともみは微笑みで受け止めて続けた。
「今、生まれて初めて心から恋をしたと言える人と一緒にいます。彼のためなら、多分私はなんでもしてしまうでしょうし、誰に何と言われても彼との恋愛をやめることはできないと思います」
大輝のことを誰かに話すのは、普段ならとても気恥ずかしいけれど、今の最優先は、ルビーの解放。そのためには明美の質問から逃げるわけにはいかない。
「人生で初めて、心から大好きになった人です」
恥ずかしさを押し殺しつつも本心を明かしたともみの答えが意外だったのか、明美が驚きの表情のままで聞いた。
「その大好きな人って、恋人…ってことですよね?」
「ええ、付き合いはじめたばかりですけど」
「もちろん…というか、既婚者、じゃないですよね?」
「はい、お互いに独身です」
うらやましいな、と明美が呟くと、ルビーが腰に巻いていたサロンを外し、カウンターから勢いよく出た。
「ルビー、どこいくの?」
「ごめん、ちょっともう聞いてられないので。その恋バナ的なやつが終わったら呼んで。その人、タクシーに押し込んで帰すくらいはするから」
「逃げるんだ」
乱暴な足音が止まり振り返る。ルビーに睨まれたのは初めてかもしれないと苦笑いしながら、ともみは続けた。
「私が信じられない?」
「…」
「今逃げ出したら、今までよりも悪化するけどいいの?今日で、いろいろ卒業するんじゃなかったっけ?」
ルビーはふくれっ面のまま黙り込み、しばらくともみを見つめた後、怒りに任せたようにドスンと、カウンター席の後ろに配置されているソファー席に座った。十分にともみと明美の話が聞こえる位置だ。
ともみは、明美がお土産でもってきてくれたかまぼこを数切れ皿にもり、ルビーが大好きな白ワイン…シャブリと共にルビーの席に運んだ。
「そんなに怒ってばっかりだと、お腹すいたんじゃない?」
「これ、美味しかったよ」と薦めたともみに、ルビーはお礼も言わず、拗ねた様子を崩さなかった。こんなに幼く見えたのは初めてかもしれないと、そのフワフワの頭を撫ぜたくなったが、これ以上機嫌を損ねても…と、やめておいた。
「…あの…ともみさん」
ともみがカウンターの中に戻ろうとしたときだった。明美が立ち上がり、ルビーの前のソファー席に座った。
「私も、こっちに座ってもいいでしょうか?」
― って、もう座っちゃってるけど。
ともみの突っ込みは言葉にならず、ルビーも呆気にとられ、口が開いてしまっている。
「それにあの…」
明美が言いにくそうに続けた。
「ルビーちゃんには、かまぼこよりも、エビのすり身が入った練り物の方が。昔からルビーちゃんの大好物なので…だから、だからそっちも出してあげてもらえますか?」







この記事へのコメント