◆これまでのあらすじ
大好きな豪の自慢の彼女でいるため、20時以降は何も食べないダイエットをしていたのに振られてしまった市子。編集者として活躍するも、恋愛経験に恵まれない双葉。そして、双葉の想い人だった六郎と結婚し、主婦として閉塞的な日々を過ごす早紀。そのころ豪と同じ会社で働く栞は──?
▶前回:「え、もう新しい彼女?」別れて1ヶ月で元彼のデート現場を目撃した女のリアル
Vol.5 <栞:代々木の立ち食い鮨>
さきほど運ばれてきたばかりの大皿のサラダは、すでに空っぽになっている。
なぜって、全て私が小皿に取り分けたからだ。
「はい、どうぞ」
テーブルを共にしている8人分のサラダを、会話とお酒に夢中になっているみんなに渡していく。
そして、サラダを受け取った人はみんな、ニコニコしながら言ってくれるのだった。
「ありがとう、栞ちゃん」と。
栞ちゃんは気がきく。
栞ちゃんは可愛い。
それが、私が職場で言われる言葉トップ2だ。
どっちも間違いなく私を褒めてくれる言葉だし、言われれば素直に嬉しい。
だけど、それらの言葉が持つ本当の意味は、私にだってわかる。
“世間知らずのお嬢様は、何にもしなくていい”。
総合商社という厳しい世界で私に求められるのは、みんなのサラダを取り分けることと、可愛く微笑んでいることだけなのだ。
だって私は、コネで商社に入ってきただけの役立たずだから。






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