◆これまでのあらすじ
高校時代、豪に片想いをしていた市子。
「豪くんに似合う女の子になりたい」
もともと食べることが好きでぽっちゃりしていた市子だったが、豪への憧れの気持ちをバネに20時以降は何も食べないダイエットを続けて垢抜けることに成功。26歳になって豪と再会し、ついに恋人同士になった。
しかし半年記念日を迎えた夜、突然「一緒にいても幸せになれない」とフラれてしまう。
傷心のあまり深夜にデザートを食べた市子の心は、その甘美な罪の味に慰められるのだった。
▶前回:付き合って半年でフラレた女。未練がある女が、夜に足を運んだ場所とは
Vol.2 <双葉:西麻布でお好み焼きとビール>
「はあ〜、つかれたぁ…!!」
ワークチェアの背もたれを目一杯軋ませながら、私は大きく伸びをする。
担当ページで特集した女優が、校了直前にまさかの不倫スキャンダルを起こすなんて。
ファッション誌編集部内でページの差し替えが決定した時は血の気が引いたが、朝からあちこちに働きかけを続けた結果、どうにか対応は間に合いそうだ。
けれど、ホッと肩の荷が下りた瞬間、今度は一気に背中に疲れが押し寄せてきた。
パソコンのモニターの時計は、もう22時半を指している。
よく考えてみれば、ランチがわりのプロテインをデスクで流し込んで以来、今日は何も口にしていない。
― なんか食べるか…っていっても、この時間だとコンビニでおにぎりでも買って帰るくらいしかないけど。
女28歳。気楽な独り身、一人暮らしだ。家に帰ったところで夕飯を作って待っていてくれる人もいないし、自分だけのために料理をする元気も残っていない。
アプリで出会ってデートを続けている男の子がひとりいるけれど、こんな時間から食事に誘ったら、他のことまで誘っていると思われかねない。
けれど、朝遅く夜遅い出版社勤めということもあり、オフィスにはこの時間でも少なくない人数が残っている。
まだ帰れずに仕事をし続けるよりは、部屋で一人ぼっち、缶ビールとおにぎりを楽しむ方がマシ…と思えることは、不幸中の幸いというべきなのかもしれなかった。
「お疲れさまでーす…」
誰に言うでもなくボソボソと呟きながらコートを羽織ると、ハツラツとした声が返ってきた。隣の島の編集長の、向井さんだ。
「おう双葉!ずいぶん早く帰るんだな」
向井さんにゲンナリとした視線を向け、私はとっととオフィスを後にする。
そして、ビルの一階に入っているコンビニを目指しながら、届いていたLINEに目を通すのだった。
LINEの送り主は、市子だ。







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