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SPECIAL TALK Vol.134

~大量生産できるものではなく、周りを巻き込んだ一点物を作りたい~


建築の道に進み、海外での生活も体験


金丸:旅をしたり、電車に乗ったり、風景を美しく感じたり。そういう経験が建築に興味を抱くきっかけになったのですか?

川西:そうですね。高校に入学したあと、なんとなく将来はデザインをやっていきたいと考えるようになりました。ただ当時は、乗り物や電車をデザインする分野はあまりメジャーじゃなくて、どうしようかなと。そんなときに枚方のおじが「建築へ進んだらどうや。建築やったら、デザインでもグラフィックでも、何でも進めるぞ」と。

金丸:枚方のおじさん、キーマンじゃないですか(笑)。そういえば、おじさんは何をされていたんですか?

川西:画家です。

金丸:面白いですね。ご両親は喫茶店で、おじさんは画家。

川西:父の兄にはダンサーもいます。もう90歳を超えていますが、このお店のすぐ近くでスタジオをやっていますよ。

金丸:めちゃくちゃバラエティ豊かな一族ですね(笑)。

川西:かと思えば、母方は親戚中が教員で、教育委員会の偉い人もいる。そんな面白い組み合わせです。ちなみにおじは、「最後はフランスに骨を埋めるんや」と言って、フランスへ引っ越していきました。

金丸:そんなおじさんのアドバイスを、川西さんは素直に受け止めて。

川西:はい。千葉大学の建築学科に。

金丸:これまでのお話を聞いていると、ゼネコンや大きな設計事務所に就職するような気配がまったくないですね。

川西:でも、大学院を含めて4年ほど、大手ゼネコンでアルバイトをしていたんですよ。自分で言うのもなんですけど、結構しっかり働いて、最後は「このまま社員に」というお誘いを何度かいただきました。

金丸:そうなんですね。でも川西さんは、そういう枠には収まらないと思います。

川西:実際に、「もっと海外を見たいんです」と言って、お断りしました。

金丸:海外ですか。大学時代は海外にも行かれたんですか?

川西:大学1年生のときに47都道府県を制覇したので、次は海外だと。初めての海外は大学2年のときにフランスのパリへ。例のおじを訪ねて。

金丸:また、おじさん(笑)。

川西:パリ郊外のおじの家を拠点にヨーロッパをうろうろ見て回って。建築やデザインは、だいたいヨーロッパからの輸入です。本物を見るのは衝撃だったし、面白かったですね。4年生のときは、スカンジナビアをぐるっと回りました。

金丸:パリとはまた全然違うでしょう。

川西:フィンランドから入って、ノルウェー、スウェーデン、デンマークと全部陸路で移動しました。フランスやイタリアも強烈でしたが、人の雰囲気やインテリアに対する向き合い方は、スカンジナビアの方がしっくりきましたね。特にデンマークはいいなと感じて、旅ではなくて住んでみたいと欲が出てきて。

金丸:好奇心のままに旅をして、旅をしては好奇心を刺激されての繰り返しですね。

川西:ちょうど就職氷河期だったこともあり、大学院で周りを見渡しても暗い話題しか入ってこない。だったら、デンマークに留学する方がよっぽど明るいし、僕のやりたいことだと思いました。それで、修了後はデンマークに渡りました。

帰宅後の暇な時間が人生を変える結果に


金丸:日本の学校は4月入学ですが、外国は9月じゃないですか。その間は、またどこかに行かれたんですか?

川西:ボランティア活動をしていました。

金丸:それはまたどうして?

川西:高校のときに建築に進もうと決めて以来、建築家の安藤忠雄さんの本を読むようになりました。僕が大学に入った1995年は、阪神・淡路大震災の年です。大阪生まれの安藤さんがメディアでいろんな発信をされているのを見て、「僕も行かなあかん」と思ったんです。だけど、「あんた、大学も決まったのに、危ないとこ行って怪我でもしたらどないすんの」と母に言われて。結局行かなかったのが、ずっと心に引っかかっていたんです。

金丸:なるほど。ボランティアはどちらに?

川西:高知県黒潮町の砂浜美術館というところに。

金丸:初めて聞く美術館です。

川西:建物として美術館があるわけじゃないんですよ。入野の浜という長さ4キロの砂浜があって、「この美しい砂浜が美術館です」というコンセプトで。

金丸:なるほど。潔いですね!

川西:毎年5月には、砂浜にTシャツを2,000枚くらい並べて、海と空と砂浜とTシャツ、という光景を作り出しています。これがすごく美しい。ただその風景を作るには、杭を打ってロープを張って、Tシャツを並べる大勢のボランティアが必要で、ちょうど募集していたんです。3週間住み込みで、家も用意してくれる。「これ、最高やな」と(笑)。

金丸:お金もかからないし(笑)。

川西:実際に行ってみたら、自然の美しさはもちろん、面白おかしいおじさん、おばさんばっかりで、むちゃくちゃ楽しかった。炎天下、ヘロヘロになりながら一緒に杭を打った仲間が、今やその町の町長をされているんですよ。

金丸:えっ、そんなことって(笑)。今でもお付き合いはあるんですか?

川西:あります。というか、その出会いがきっかけで、10年後に近くにある土佐くろしお鉄道の中村駅の改修を手掛けることになりました。

金丸:本当にご縁ですね。どこでどんな出会いがあるか分からない。ところで、ちょっと時間を戻して、留学されたあとのことを教えていただけますか?

川西:デンマークに留学したあとは、オランダで働き始めました。日本と大きく違うのは、オランダやデンマークって、夕方6時にはみんな絶対、家に帰るんですよ。

金丸:残業していたら、“仕事が終わらない人”扱いされてクビになるとか?

川西:まさに。で、家に帰ると自分の時間がたくさんある。だったら、デザインコンペにでも参加しようかなと思って、いろいろ探して見つけたのが、鉄道会社のロゴマーク募集でした。熊本と鹿児島の間を結ぶ鉄道路線の一部が、第三セクターの新会社に移管される。「これは勝たねばならん」と思ったんです。

金丸:それが、肥薩おれんじ鉄道だったんですね。

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