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SPECIAL TALK Vol.134

~大量生産できるものではなく、周りを巻き込んだ一点物を作りたい~


好奇心と征服欲。町内を隅々まで知り尽くす


金丸:早速ですが、お生まれはどちらですか?

川西:奈良県磯城(しき)郡の川西町というところです。奈良盆地のほぼ真ん中にあって、はっきり言うと田舎町ですね。

金丸:その町でいつまで過ごされたんですか?

川西:高校までです。小中は地元で、高校は県内の公立高校に通いました。中学は典型的な荒れた学校で、ガラスは割られるわ、校庭をバイクが走るわ。

金丸:私がいた中学もそんな感じでした。

川西:今になってみると、いろんな人がいるっていうのは大事だなと思いますけど。

金丸:毎日いろんなことが起きるから、小さいことには動じなくなりますよね。ところで、川西さんは子どもの頃はどんなお子さんだったんですか?

川西:勉強なんかほとんどせずに、遊んでばかりいましたよ。自然の中で遊んだり、秘密基地を作ったり、道路で野球をやったり。

金丸:道路で野球というのは、田舎だからこそという感じがしますね。

川西:珍しいところだと、町内の全部の道を制覇しました。

金丸:えっ、どういうことですか?

川西:言葉のとおり、町内の全部の道を自転車や徒歩で回って、とにかく全部把握しました。どこに誰の家があって、どこにどんなお店があってというのを。

金丸:これまでいろいろな方と対談してきましたが、初めて聞きました(笑)。それは好奇心からですか?

川西:ひとつの征服感ですかね。小学生のとき、町外へ出るには親の同伴、あるいは学校の許可が必要だったんです。つまらないルールだなと思いましたが、町内であれば無許可でどこへ行ってもいいんだな、ならば町内のありとあらゆるところを知り尽くしてやろうと思って。小さな町ですけど、とにかくすべての道を繰り返し回って、おかげで建物の形とか色とか全部覚えています。

金丸:とんでもない行動力と記憶力ですね(笑)。それに反骨精神も。私も大人には相当反発していたので、同じ境遇なら、勝手に町の外に出ていたかもしれません。

川西:それもやってました(笑)。

金丸:なんだ、町外に出てたんですね(笑)。

川西:長期休みになると、JRが各駅停車なら一日乗り放題という「青春18きっぷ」を販売していたので、それを使って。

金丸:どこまで行かれたんですか?

川西:最初は小学5年生の夏に福井まで。

金丸:親御さん同伴ではなく?

川西:はい、ひとりで。親からは「そんな、あんた危ないからやめとき」と言われたんですけど、「大丈夫や」と福井まで行って帰ってきて、「な、大丈夫やったやろ」と。味をしめて、その年の冬休みには1泊2日で東京に。

金丸:東京ですか!?関西どころか関東へ。全然町内に収まってないですね(笑)。

川西:遠くへ行ってみたかったんです。奈良盆地にいると、外に出たいという気持ちに駆られるんですよ。それに、自分の目で見てみたいというのもありました。

町外への外出禁止。川西少年が取った行動は


金丸:東京までって、各駅停車でどのくらいかかるんですか?

川西:10時間くらいですね。親からは「ひとりではあかん」と言われたので、友達をふたり誘って悪ガキ3人で。朝5時に出発して。

金丸:東京では、あちこち見て回ったんですか?

川西:いや、とにかくお金がなかったので、着いたら駅前のマクドナルドに直行しました。旅の資金源は月3,000円のお小遣いと、「キャベツ買ってきて」とかの喫茶店の買い出しのお駄賃。それが1回100円。軍資金が1万円くらいしかないので、ホテルには泊まれない。だから、夜行列車が宿代わりでしたね。寝台列車じゃないので座るしかできないけど、とにかく1泊分は浮く。

金丸:体力にものを言わせた旅ですね(笑)。そういう旅を、その後も続けたのですか?

川西:中学生くらいからひとり旅になりましたが、高校まで春、夏、冬の長期休みには欠かさずやっていました。中3か高1だったと思いますが、レモン畑にレモンをもらいに行ったこともあります。

金丸:ちょっと待って(笑)。どういうことですか?

川西:喫茶店の買い出しって、大体キャベツ、トマト、キュウリ、レモンと決まっているんですよ。で、あるとき野菜は大抵国産だけど、レモンはアメリカ産なのに気付いて、「何でレモンはアメリカ産なんや?」って。気になって調べてみると、広島で国産レモンを作っていることが分かりました。

金丸:それで、実際に見てみたくなったんですね。国産のレモンというと、今も瀬戸内が有名ですね。

川西:おっしゃるとおり、船とバスを乗り継いで広島の生口島に行きました。レモン畑を訪ねて、農家さんに「ポストハーベスト農薬を使ってない、このレモンが欲しいんです」と。

金丸:農家もびっくりでしょう(笑)。いきなり中高生がやってきて、そんなことを言われたら。川西さんは好奇心を抱いたら、すぐ旅に結び付けて行動されていますね。

川西:そうですね。最初は単純に「町の外に出たい」だったんですけど、徐々にそういう方向に。それに何かネタがあれば、親をより説得しやすくなります。あとは親に止められないよう、もう引き返せない出発の2、3日前のタイミングで伝えていました。

金丸:策士ですね(笑)。

川西:子どもながらに悪知恵が働いてまして(笑)。もちろん、単純にきれいな風景を見て、「行ってみたい」と思うこともありました。そういえば、うちは大阪府の枚方市に親戚が多くて。本当に“ただの農村”みたいなところに、父方のおじが住んでいたんです。

金丸:枚方!私は一時期、枚方にも住んでいて。今でこそ随分街になりましたが、当時は自然が豊かなところでしたよね。

川西:そうなんです。おじの家に行くと、ほったらかしみたいな畑から野菜を採ってきて、野菜スープを作ってくれて。おじの自由奔放な暮らしが子ども心にすごく響いたんですが、そこへ行くまでの、奈良市から精華町を抜けていく道のりも好きでした。今は「けいはんな学研都市」になっていますけど、子どもの頃は、タヌキが普通に出てきそうな風景が広がっていて。両親が運転する車から景色を見ながら、なんとなく「いいなあ」って感じていましたね。

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