10b1786a2d7b53032b189967c3bb3e
TOUGH COOKIES Vol.35

恋を長続きさせるために、絶対にやってはいけないコト。わかっているのに、28歳女はつい…

SUMI

「友坂くんがデビューして今年で3年になるのかしら。脚本家として、本当に大事な時期よ。ようやく作品が世の中に認められはじめて今が勝負の時なのに。

友坂くんは子ども時代、ご両親の愛に飢えて…孤独を癒やしてくれていたのが映画だったらしいの。だからこそ彼の夢はね。子どもたちが楽しめて幸せになれる作品を書くことだって教えてくれた」

その夢はともみも知っていた。いつかこんな物語を書きたいと大輝が目標に掲げている作品は、どんな困難に陥っても夢を諦めずに旅を続ける主人公と、時には自分を犠牲にしても主人公を助ける仲間たちの絆が描かれた大ヒットアニメで、最近ハリウッドで実写映画化された友情と冒険の物語だ。

「不倫の噂がある脚本家に、子どもが観る作品のオファーが来ると思う?」

キョウコの笑みが自虐的に歪み、ともみは反論できなかった。

一時期仕事を干されたとしても、本当に脚本家としての力があれば戻ってくることはできるだろう。けれどそれは、“仕事を選ばなければ”だ。

大きな作品には大企業のスポンサーがつくことも多いし、視聴者もSNSで簡単に抗議ができる今の時代、一度でも不倫という烙印を押されてしまえばきっと、“子どもが幸せになる”物語を書くという大輝の夢は、きっと叶わなくなる。

「別れを選んだのは、A子さんの常軌を逸した行動から友坂くんを守るためではあったけれど、脅されたおかげで、私はある意味冷静になれた。

私たちの狭い業界で…私との関係がいつかバレたら、友坂くんは夢を失ってしまう。そんな当たり前のことはずっとわかっていたはずなのに…私はそれを封じ込めて忘れようとしてた。

彼は愛を何より大切にする人だから、きっと夢より私を選んでしまう。そして私もその甘い日々を夢見なかったと言えばウソになる。仕事なんてどうでもいい、彼といられればそれだけでいいって。

でも、A子さんの“友坂くんの人生を壊す”って言葉で、頭が一気に冷えた。私はどうなってもいい。でも友坂くんの夢を潰すのは絶対にダメ。友坂くんの夢は、幼い頃の彼自身を救うためにも…今も彼が抱え続けているトラウマを乗り越えるためにも必要な夢だから」

大輝のトラウマ。彼が何かを抱えていることはともみも感じていた。けれど、まだ、あの美しい男が自らの奥底に隠し持つものに、ともみはまだたどり着けていない。

「それに何より…彼には書く才能がある。ひいき目でなく本当にそう思うから、その才能も守らなければと思った。たとえ彼自身が望まなかったとしても——友坂くんの人生も、そして夢も奪われてはいけない。だからどうしても守るべきだと思ったの」

悲痛な響きが、なぜか凛と聞こえる。キョウコの潔さには共感するし、きっとキョウコの選択は正しい。けれど。

「友坂くんには絶対に言わないでね」と強い瞳で求められた約束に頷きながら、ともみは、今すぐ大輝を抱きしめてあげたいと思った。その報われなかった恋ごと、強く、強く。


「おじゃましま~す!」

ルビーがサーターアンダギーをたらふく食したお菓子タイムの終了から1時間後。はつらつとした勢いでTOUGH COOKIESに入ってきたのは、柏崎メグ。つまり、ミチの元カノだった。

「メグの本心を聞いてやってくれないか」

ともみにそう連絡してきたのは、西麻布の女帝こと光江だった。なぜメグが?と聞き返すことはしなかったが、「ミチには内緒だから」と言われて驚いた。

ミチさんとメグさんは、今も仲良さそうだったけど…なんで内緒なんだろう。

この記事へのコメント

Pencil solidコメントする
No Name
酔い潰れたフリした夜のお姉様にキスされてもノーリアクション🤣 しがみつかれた腕を払って、指摘された残り紅を拭ったミチ。 惚れてまうやろー(古っ)
情景がはっきり浮かぶような書き方は本当にお見事だなと毎回感心! あの傷はメグを庇って出来たんだ、何が有ったんだろう。来週はゴットマザー登場だ! 監督vs大輝の話も気になる。
2025/10/21 05:5319
No Name
お久しぶりのルビー♡ アンダギー10個以上、さすが! 彼女の過去もそろそろ明かされるかな。
2025/10/21 05:2717Comment Icon1
No Name
一つ一つ丁寧に回収されるこのシリーズがとても好き! 気になってた事が徐々に(確実に)クリアになっていくから面白い。来週、光江さんとメグの掛け合い早く読みたい。
2025/10/21 07:5210
もっと見る ( 9 件 )

TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

この連載の記事一覧