港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「なんとしても…」片思いの彼を手に入れるため、女がとった卑怯な手段
「で?まさかですけど…ともみさん、その人妻さんが“別れることに決めた本当の事情”ってやつを、大輝さんに伝えるつもりじゃないですよね?ま・さ・か、ですけどぉ?」
2度目のまさかを強調して呆れた顔で眉を寄せ、ともみの顔をのぞきこんだのはルビーだ。キョウコとともみが対面を果たした3日後のTOUGH COOKIES。予約客が到着する1時間前に店内の準備を終わらせ、恒例の(主に食べるのはルビーだが)お菓子タイムの時間だった。
休みに沖縄に行ってきたというルビーが、この世で一番好きなお菓子の1つだというサーターアンダギーを大量に買ってきたので(ルビーには一番好きなお菓子が大量にある)ともみは普段カクテルに使っている甘さ控えめのアーモンドミルクを2人分入れた。
カウンターに並んで食べ始めてすぐに、このところのあれこれ——大輝と付き合い始めてからの事情をルビーが聞きたがったので、ともみは大輝の元カノが実は著名人で…というような個人が特定できそうな情報は隠しながらも、正直に話していくことにした。
「ずっと好きだった人と付き合えることになったんだから、ただラブラブチュッチュしてればいいのに…わざわざ元カノに会いに行くなんて、なんでそんな厄介なことしちゃうんですかぁ」
と、ペラペラしゃべる、もぐもぐ食べる、を器用に繰り返す合間で大げさにため息をついたルビーが、「まあ、ネキが恋愛激ヘタなのはわかってますからね」と、ポンポンとともみの肩を慰めるように叩いた。
「…そのネキって言うのいい加減やめない?」
ともみの毎度の提案を笑顔でスルーし、ルビーは続けた。
「いいですか、ネキ。LOVEを長続きさせるためには、やっちゃダメなことがあるわけですよ。ぶっちぎりの第一位は相手の携帯を勝手に見ることでしょ?でもそれと同じくらい、恋人の元恋人のことを探るのもダメ。いい事なんてあるわけないんだから。
なのにまさか、自分から会いに行く人がいるとは…なんつーか、ハート強すぎて怖いっす。そこまでいけばむしろリスペクト的な?」
話す…というより、ともみへの説教の間も食べる手を止めず、おそらくもう10個目以上にはなる新たなサーターアンダギーに手を伸ばしたルビーに、哀れむような視線を向けられ、ともみはぐうの音も出ない。
大輝と出会うまで、狙った男性は必ず手に入れてきたはずの自分が、実は本気の恋は初めてという恋愛初心者で、恋愛音痴属性だということは、ルビーに散々からかわれたことで、しぶしぶながらともみも自覚するようになっていた。今も、ルビーの言い分が正しいんだろうな…とは理屈では分かるけれど。
「ま、ともみさんは一回こっぴどくフラれてるからね」
「…こっぴどくって…」
「で、必死に友達になろうとしてた時に、突然やっぱり好きかも…って言われて付き合うことになってアワアワしちゃうのも、ネキの恋愛偏差値の低さじゃ仕方ないかなと思うけどさぁ」
「…ルビー、あなた私のことバカにしてる?」
睨んだともみに、「そんなわけないじゃ~ん!超、超、アイシテル♡」と満面の笑みで、両手で♡マークを作った。
この記事へのコメント
情景がはっきり浮かぶような書き方は本当にお見事だなと毎回感心! あの傷はメグを庇って出来たんだ、何が有ったんだろう。来週はゴットマザー登場だ! 監督vs大輝の話も気になる。