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TOUGH COOKIES Vol.35

恋を長続きさせるために、絶対にやってはいけないコト。わかっているのに、28歳女はつい…

SUMI

「アタシはただ、ほんっとうに心配なだけ。あまりにも急展開で恋人になれちゃったもんだから、大輝さんの本心を確かめたくなるのもわかる。で、そのために真っ向から元カノさんに会いに行っちゃう勇者っぷりも、ネキ…ともみさんらしくて、私は大好きだよ。でもさ」


ルビーの眉が、心から心配していると伝えるかのように寄せられ、下がった。

「ともみさんは真面目過ぎるし、自分の痛みには超鈍感だから、やっと気づいた時には傷だらけで、死ぬ直前の手遅れって感じになりそうなんだよなぁ」

「鈍感…打たれ強いって言ってよ」

芸能界にいた頃から、思い通りに行かないことばかりだった。けれど全てが夢を叶えるための努力の勲章だと、痛みや苦しみに鈍くなろうとした自覚はある。

「どんな時だって真実を追求しようとするのも、かっこいいと思うよ。でも、知らなくていい真実もあるとアタシは思う。ウソが必要な時もあるし、ウソで守れる幸せもあるんだからさ」

「…ルビー?」

ルビーの口ぶりにいつもとは違う影が見えた気がして、どうかした?と続けようとしたとき、ルビーの言葉が重なった。

「きっとともみさんは、元カノさんに会ったことを後悔してない。でしょ?」
「うん、後悔はないよ」

心からそう答えた。キョウコが望んで別れたわけではないと知ったことで、やるせない想いを抱えることにはなってしまったけれど、ともみはキョウコと話せたことには価値があったと思ってる。

「元カノさんが大輝さんに伝えないと決めたことを、ともみさんが勝手に伝えるのはルール違反だからね?大輝さんを過去に引き戻すようなことは、絶対にしちゃダメだよ?」

諭すような優しい笑みに、ほんの少しだけともみを咎める強さが混じる。ルール違反。確かに、ともみはキョウコに、大輝には真実を伝えない、と約束してしまったのだ。



キョウコは大輝を守るために別れを告げたと言った。夫の元愛人が「大輝の人生を壊す」と脅したからだ

大輝の人生を壊す。常軌を逸した元愛人がどのような方法で攻撃するつもりだったのか、今となれば分からない。けれど、不倫を暴露されたくらいでは大輝の人生は壊れず、むしろキョウコに惜しみなく愛を注いでいけることを喜んだだろうとともみは思った。

― 大物監督の妻を寝取った男、として夢は失うことになったとしても、ね。

キョウコの夫、門倉崇は日本の映画界のトップに君臨すると言ってもいいほどの有名映画監督だ。業界の中ではまだ新人に位置する大輝とは比べられぬほどの力を持ち、業界内の誰もが門倉崇の肩を持つに決まっている。

さらに、キョウコも日本有数の脚本家の一人だ。“有名女性脚本家と若手新人脚本家の不倫”というウワサが面白おかしく回り始めれば、それは“枕営業”と同義語となり、これまでの大輝の脚本でさえもキョウコが手助けをしたから書けたのではないか、という大輝の能力への疑いも芽生えていくだろう。

そんなスキャンダラスなウワサたちが、狭い業界の中で瞬く間に広がっていく様子が、その世界で生きてきたともみには目に浮かぶように想像ができた。そのうえ、きっと。

— あのルックスが災いする。

誰もが見惚れる外見を使い、キョウコに取り入ったはずだという推測を払拭できるほどの実力はまだ大輝にはなく、書いた作品はヒットしたり、しなかったりという状態なのだ。

自分の力不足を知っているからこそ、大輝は必死に反省と勉強を続けていた。そしてようやく年に2~3本の脚本をコンスタントに任されるようになったと喜んでいたのに。

キョウコの、あの日の静かな声が、まるで今聞いているかのようにともみの脳裏にまた、浮かんできた。

この記事へのコメント

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No Name
酔い潰れたフリした夜のお姉様にキスされてもノーリアクション🤣 しがみつかれた腕を払って、指摘された残り紅を拭ったミチ。 惚れてまうやろー(古っ)
情景がはっきり浮かぶような書き方は本当にお見事だなと毎回感心! あの傷はメグを庇って出来たんだ、何が有ったんだろう。来週はゴットマザー登場だ! 監督vs大輝の話も気になる。
2025/10/21 05:5319
No Name
お久しぶりのルビー♡ アンダギー10個以上、さすが! 彼女の過去もそろそろ明かされるかな。
2025/10/21 05:2717Comment Icon1
No Name
一つ一つ丁寧に回収されるこのシリーズがとても好き! 気になってた事が徐々に(確実に)クリアになっていくから面白い。来週、光江さんとメグの掛け合い早く読みたい。
2025/10/21 07:5210
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TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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