ニューヨーク。
眠らない街で、スマホを片手に恋を探す男がいる。
日本でも海外でも主流となったマッチングアプリはもちろん、最近流行っている「リアル」な出会いイベントにも顔を出す。
成瀬遥斗、28歳。総合商社勤務6年目。ニューヨーク駐在中。
その肩書もあって、マッチングアプリを開けば、メッセージは山のように届く。
しかし、出会いは星の数ほどあるが、本当に心を許せる“誰か”には、なかなか出会えない。
成功や出会いが次々と生まれるニューヨークで、遥斗の恋人探しの旅が始まる。
Vol.1 別れと出会い
吐く息が白く凍る丸の内の朝、街路樹の霜が陽にきらめき、街は静かに新しい年の鼓動を打ち始めていた1月半ばの朝。
大手総合商社に勤める成瀬遥斗(28)は、出社しメールのチェックをしようとパソコンを開いたところで部長に呼ばれた。
整然として無機質な会議室に通されると、適当に座るように促された。部長から直接呼ばれることなどあまりなかった遥斗は、緊張感に包まれる。
部長は、穏やかな目で告げた。
「4月1日付で、成瀬君のニューヨークへの転勤が決まった。詳しいことは人事から連絡があると思うが、行けそうか?」
「え、は、はい。行きます。頑張ります」
その言葉に部長は微笑むと「頼んだよ」と忙しそうに会議室を後にした。
― やった、本当にニューヨークに行ける!
遥斗にとってニューヨークは憧れの街だった。
昔見たニューヨークを舞台としたドラマの中で、主人公がニューヨークで颯爽と歩く姿が格好良くて、ミーハーな遥斗はいつか自分もスーツを着こなし流暢な英語でカッコよく働きたい、と思ったのだ。
その願いがこんなに早く訪れたことに、心が弾んだ。
だが同時に、心の片隅には美沙のことが引っかかる。
遥斗が付き合っている彼女は、広告代理店で働く27歳。彼女とはマッチングアプリで知り合った。
付き合い始めたばかりの頃、遥斗はトレーニーとして1年間のデュッセルドルフ駐在が決まり、遠距離恋愛をすることになったのだ。
しかしそれは、二人にとって想像以上に大変だった。
時差のせいで気軽に電話もできない上、ヨーロッパや東京以外ともミーティングが入るため、寝る時間を確保するのがやっとだった。
美沙と約束していたビデオ通話の時間を何度も寝過ごしてしまい、その上メールでケンカになると、さらに誤解を生んで悪循環。
結局二人は別れることになった。
だが帰国して2年後、偶然再開し、お互いに未練があった二人はよりを戻した。
関係は良好だったが、今回の辞令はまた二人の未来に影を落とす。
遥斗は美沙にどう伝えるか、真剣に悩んだ。







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下手くそ