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SPECIAL TALK Vol.132

~東京だけが感じさせる未来感は、今なお魅力を放ち続ける~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長
大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。日本ハンドボール協会会長。


日本人が知らない日本のアート、可能性


金丸:ところで、ニコラさんが見て、「これはすごい」と感じる日本のアートはありますか?

ニコラ:いろいろありますよ!例えば、岡﨑乾二郎さん。少し前に東京都現代美術館で展覧会が行われていました。彼のペイントは、私には考えられないような色のコンビネーションです。「この色にこの色を重ねるなんてあり得ないのに、なんでこんなに完璧なんだ!?」って。写真じゃなくて、実物を見てこそ衝撃がある。あとは「もの派」(60年代後半から70年代前半に、土や石などの自然物と鉄やガラスなど人工の素材を用いた作品を制作した作家の総称)。アメリカのモダンアートと同じくらいのパワーがあります。韓国生まれの李禹煥(リ・ウファン)さんなどが代表的な存在です。

金丸:恥ずかしながら、どちらも見たことがありません。

ニコラ:日本のポテンシャルを日本人が知らない。もったいないですよ(笑)。それから、一番すごいのは、桂離宮です。

金丸:建築なんですね。

ニコラ:アール・デコ(10年代から30年代にかけて流行した潮流)は、日本のアートの特徴を取り入れています。だから日本の美術を見ても、私はそこまで新しいという感覚を得られませんでした。でも、建築は違う。

金丸:日本の建築は、自然との調和や空間の使い方が特徴とされていますよね。

ニコラ:外国人は日本の旅館が本当に大好きです。障子を開けたり閉めたり、ずっと遊んでいられますよ。

金丸:確かにヨーロッパの建築だと、壁があって、ドアがあるのが当たり前です。

ニコラ:ヨーロッパは全然フリーじゃない。普段は狭い部屋でも、お客さんが来るときには障子を全部開けて、広く使う。そんなふうに簡単に空間を変えられるのは、すごく面白い。「どうぞ好きなことをしてください」と言われているようなものです。そういう優れた文化があるのに、マンションの多くがニューヨークやパリと同じような空間になっています。もったいない。

金丸:あちこちに「もったいなさ」がある中で、ニコラさんはこれから日本でどんなことをしたいと思っていますか?

ニコラ:やりたいことが多すぎて、どうしようか、と(笑)。でも、生活に密接したものをやりたいという思いはあります。美術館に行ってアートを見る以上に、毎日の生活には面白さが大事だと思っているので。

金丸:いいものを見れば、勉強になる。日々見ているものが、その人の価値観や美意識を作りますからね。

ニコラ:そうそう。デザインの勉強は、子どもの頃から「見る」ことで始まっています。例えば、ニュースを毎日見ますよね。あのステージや情報の出し方、人の動きをもっと美しく見せればいいのに、と思います。毎日見るものだからこそ、ちゃんとやらないといけない。

金丸:あとは店舗だと、コンビニとかですか?

ニコラ:興味はありますね。でもやっぱり究極は「街」を作りたいです。金丸さん、街ってどこから始まると思いますか?

金丸:建築やシステム、人の動きを考えるところからですか?

ニコラ:私は車だと思います。車を変えなければ、街の見た目は変わらない。

金丸:なるほど。車のデザインが変われば道路も変わるし、建物もシステムも変わると。

ニコラ:その点、実験都市「ウーブン・シティ」を作ったトヨタは、やっぱり考えているなと思いますね。

金丸:ぜひニコラさんにも、日本のどこかで街を作ってもらいたい。フランスだと壊せない建物ばかりで、思い切ったことができないんじゃないですか?

ニコラ:そう。日本は変えるときは思い切り変えますよね。特に東京はビデオゲームみたいな街。出張に行って戻ってきたら、道がなくなっていることもある。常に動き続けているけど、いまだにポテンシャルがなくならない。

金丸:目をキラキラさせながら話すニコラさんを見ていると、これからも新しいものを次々と生み出してくれそうで、とても楽しみです。今日は本当にありがとうございました。

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