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SPECIAL TALK Vol.132

~東京だけが感じさせる未来感は、今なお魅力を放ち続ける~


身ひとつで来日し、尊敬する人へアプローチ


ニコラ:イギリスは日本と同じ島国です。こもりっきりになれば何もなくなるけど、開放していれば、世界からいろいろなものが集まってくる。いいモノ、いい人もやってくるし、ビジネスではアメリカとのつながりも強い。

金丸:デザインやクラフトマンシップはもちろん重要だけど、ビジネスの視点を抜きにするとうまくいきませんからね。

ニコラ:そうです。だからこそ、坂井直樹さんの仕事を知ったとき、「絶対に会いたい」と思ったんです。

金丸:坂井さん……?すみません、不勉強で。

ニコラ:坂井さんは自身を「コンセプター」と名乗っていますが、とても優れたデザイナーです。日産の「Be‐1」「PAO」「フィガロ」とか、オリンパスのカメラ「O・product」とか知りませんか?

金丸:ああ、分かります。それらをデザインされた方なんですか?

ニコラ:はい。坂井さんはクリエイティブマインドにあふれていて、「こういうものがあったらいいのに」と思ったものを仕事にしちゃう。自分で使いたいカメラが欲しいと思えば、オリンパスに行く。クライアント発案じゃなくて、カスタマーからプロジェクトが始まるような方です。

金丸:それは面白い。

ニコラ:でしょう。しかも坂井さんは、新しい何かを求める企業とそれにふさわしいデザイナーをつなぐインターフェイスを、新しいビジネスモデルとして生み出しました。そんな坂井さんに会いたいと思ったからこそ、私は日本に来たんです。

金丸:そうだったんですね。ニコラさんが来日したとき、誰か知り合いはいたんですか?

ニコラ:まったくです。知り合いもいない。仕事もない。日本についてもほとんど知らない(笑)。でも私の中では、ヨーロッパは「古い、もういいよ」っていう感じ。雑誌や映画を見て、東京は違う世界、違う時代を感じさせてくれる街だという確信だけはありました。

金丸:しかし、ツテも何もない状態で日本に来るって、すごいですね。

ニコラ:今でも覚えていますが、最初に泊まったのは“ニューオータニ”です。

金丸:贅沢すぎませんか(笑)。

ニコラ:もともと泊まろうとしていた小さなホテルが満室で、そのホテルに教えてもらったのが“ニューオータニ”。レベルが違ってびっくりしたけど、値段のレベルも段違い(笑)。1日泊まっただけで、予算の4分の1がなくなってしまいました。

金丸:同じ価格帯のホテルを教えてくれたらよかったのに(笑)。

ニコラ:朝起きて外を見たら、赤坂離宮が見えて。「なんでこんなところにいるんだ。夢かな?」ってパニックになりました(笑)。

金丸:それで、坂井さんとはすぐに会えたんですか?

ニコラ:いえ、当時からすごい人気だったので、なかなか会えませんでした。坂井さんにはロンドンにいる頃から手紙を送っていて、全部で100通くらい書きましたよ。

金丸:そんなに。すごい熱量ですね。

ニコラ:それでも全然会えないから、あるとき、アルミニウムの箱の中に種を入れて、ポエムをつけて送りました。ラブレターみたいでかわいいでしょ。それが日本に来て3ヶ月くらい経った頃。

金丸:なんだかロマンチックですね。

ニコラ:そしたら、次の日に秘書から電話があって、呼び出されました。

金丸:とうとう情熱が通じたんですね。

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