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SPECIAL TALK Vol.132

~東京だけが感じさせる未来感は、今なお魅力を放ち続ける~


日本人デザイナーとの刺激的な協業の日々


ニコラ:坂井さんに会いに行ったら、まず秘書の方が対応してくれました。少し話したあと、彼女が坂井さんの部屋に入り、「普通の人です」と話す声が聞こえてきた。プレゼントを見て、ストーカーかもしれないと思われたみたいです(笑)。

金丸:誤解が解けて、よかったですね。

ニコラ:本当にね(笑)。それで坂井さんと話して、次の日にまた電話が来ました。「1ヶ月後に展示会があるので、仏壇を作ってください」と。15秒くらいの説明だけで、あとはお任せ。かなり悩みながら作ったけど、おかげで好評でした。

金丸:少し話しただけで、いきなり仕事を。任せた坂井さんも、受けたニコラさんもすごいな。

ニコラ:仏壇をまったく知らない私がデザインしたら面白い、と思ったみたいです。その後も坂井さんと一緒にいくつか仕事をしましたが、坂井さんは途中でデザインをチェックせず、デザイナーの好きにさせるんです。

金丸:そうなんですね。思う存分にやれる反面、何かあったらと考えると怖くないですか?

ニコラ:怖いですよ(笑)。韓国のLG電子の携帯電話をデザインしたときも、坂井さんと落ち合ったのは、韓国の空港。そこで初めて「こういう感じで考えました」とデザインを見せて、坂井さんから「じゃあいきましょう」って。

金丸:それだけ?

ニコラ:それだけ。私がプレゼンしている間、坂井さんは黙って、みんなのリアクションを見ている。

金丸:リアクションを?

ニコラ:そういう場面で一番偉いのは社長だけど、社長は現場のことはあまり知らない。一番分かっているのはエンジニアだから、その人たちがどのように受け止めるかを坂井さんは見るんです。

金丸:なるほど。エンジニアが「これはいい」と言えば、社長も無下にはできないですからね。

ニコラ:そう。そんなふうに坂井さんは、いいデザインをいい商品として生み出すための手法を駆使していた。そばで見ていて、本当に勉強になりました。

金丸:二コラさんはデザインそのものというより、プロセスを学ばれたんですね。

ニコラ:そうですね。いろいろ貴重な体験をしました。一番びっくりしたのは、「自動車のコンセプトを考えて」と言われて、2ヶ月後に坂井さんから「明日、一緒に品川に行きましょう」と。行ったらソニーのビル。なんと、出井伸之さんに私がプレゼンして、それを坂井さんが聞いている。

金丸:世界有数の企業のトップに、いきなりプレゼンすることになるなんて、怖すぎる(笑)。なんだか、ずっとニコラさんの力を試されているみたいで、気が抜けないですね。

企業はデザイナーに「新しい考え」を求める


ニコラ:私は三宅一生さんにもお世話になりましたが、三宅さんもそういうところがあるんです。三宅さんはグラフィックや広告、ファッションに香水と幅広く手掛けられていて、どれも完璧だから、彼とも仕事をしたいと思っていました。それで、ポートフォリオを送ったところ、仏壇に興味を持ってくれました。

金丸:やっぱり、ひとつの仕事がさらにまた、次の仕事につながっていくんですね。

ニコラ:三宅さんに初めて会ったとき、「お店を作りたくないですか?」と言われて。やったことがなかったので、「やってみたいです」と返したら、「じゃあ、パリのこのお店をお願いします」って。

金丸:いきなり国外、しかもパリのお店ですか!?

ニコラ:しかも、倉俣史朗さん(フランスで芸術文化勲章を受章するなど、国際的な評価を受けたインテリアデザイナー)がデザインしたお店のリニューアル。そして「明日までにデザインを持ってきてください」と。

金丸:スパルタだ。

ニコラ:その日は寝ないで準備して、7パターンのスケッチと模型を持って行きましたけどね。その中から選んだ案を、「じゃあまた明日」でさらにブラッシュアップ。方向性について、三宅さんは何も言わない。それを何日か連続でやる。とにかくデザイン、デザイン、デザイン、デザイン。

金丸:それに応えるニコラさんがすごいですよ。

ニコラ:4日もやれば、ちょっとハイテンションになって、楽しくなってきますよ(笑)。それと、三宅さんはいつも本を準備していました。何冊か渡されて「これ、勉強しておいてください」って。

金丸:デザインに関する本ですか?

ニコラ:そう。インテリアデザインとは関係ない、お皿とか料理の本ですが、その本がまた良くて。坂井さんからはデザインのプロセスを学び、三宅さんからはデザインそのものを学び直した、という感じです。

金丸:ニコラさんの仕事を見ていると、単にかっこいいとか美しいとかだけではなく、ニコラさんの解釈を経た、新しさが吹き込まれていると感じます。

ニコラ:そうですね。だから私に依頼する人たちは、「新しい考え方」が欲しい。

金丸:でも難しいのが、企業は新しいものを求めているんだけど、新しすぎるものを出されるとビビっちゃうでしょ。

ニコラ:そう。100%見たことがないものだと、「なにこれ?」ってなりますよね(笑)。でも、1%新しいだけじゃ満足できない。10%だと面白いけど、まだ足りない。たまに50%くらい新しくしたい気持ちになるけど、いざやってみると、ためらう企業が多い。

金丸:そうすると、気持ち的には「30%くらい新しい」がいいバランスでしょうか。だけど、ニコラさんに依頼するブランドって勇気があるよな、って思います。世界中にファンがいて、今でも十分売れている。それでも変化を求めて、ニコラさんに声をかけている。

ニコラ:そうですね。そういうブランドとの仕事は、私のアイデアを前面に押し出すのではなく、ブランドとコミュニケーションをとりながら、バランスを探っています。だから自分としても、勉強になって楽しいですね。

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