私は、なんとなく、昨年できたばかりのカフェに入る。
午前中だからだろうか。ノートパソコンを開いた人ばかりだが、辛うじて空席はある。
私はホットのカフェラテを注文し、空いている席に腰を下ろした。
本でも持ってくればよかったと思いながら、スマホでInstagramのストーリーズを流し見していく。
― 「SNS担当募集」か…。
ふと目に留まったのは、学生時代に同じダンス部だった友人が経営するエステサロンの求人投稿。
白金にある小さなサロンで、足痩せのマッサージに通ったことがある。
求人にピンと来て「よかったら、詳細を教えて」とDMしてみる。
しかし、その後私の頭の中はまた“夫の浮気疑惑”に支配されてしまった。
出会い系のアプリを使っているかも…という夫への不信感は、麻布十番の商店街で若い女性といるところを目撃したことで確信に変わった。
彼女とはギャラ飲みアプリで出会い、20代半ばで名前はメイ。Instagramもすぐに見つかり投稿をチェックしてみたが、キャプションには「楽しかった」「おいしかった」「可愛い」のオンパレード。
夫が彼女に求めるものは、若さと癒やし…要するに体だろうと想像がついて、さらに複雑な気持ちになった。
夫の将生は「肉体関係はない。やましいことはしていない」と淡々と息も乱さずに言っていた。しかし、彼から何の日でもないのに突然プレゼントされたグラフのリングは、懺悔の置き換えなのではないかと思ってしまう。
― だめだめ。もう考えるのはやめよう。
私はまた負の感情に引っ張られそうになり、ラテを一口飲んでからゆっくりと深呼吸をした。
将生と出会った日のことは、よく覚えている。
私が受付をしていた六本木の美容皮膚科に「肝臓に効く注射ありますか?」と電話をしてきたのが最初のコンタクト。
その後、会食の前に度々点滴をしに来てはその度に私は口説かれ、そのしつこさに根負けして食事に行った。
2軒目のバーで「付き合って欲しい」と告白された。
六本木にある外資系ホテルで挙げた結婚式。スイートルームに用意された真紅のバラ。妊娠がわかって、部屋で二人だけでシャンパンの替わりに炭酸水で乾杯した夜。圭太が産まれ、私の実家で一緒に過ごした時に味わった、初めての子育てへの緊張と終わりのない寝不足。
3組に1組の夫婦が離婚する時代だ。永遠なんてものは幻想。存在しない。
そんなことはわかっているけれど、私は離婚を選ぶつもりはない。
というか、選べない。
由里子みたいな盤石なキャリアも、まりかみたいにゼロから立ち上げるバイタリティもないから。
それでも…。
それでも、何かを変えないと、きっと将生は同じことを繰り返すし、私も本来の私から遠ざかってしまう。
この記事へのコメント
あと、愛梨が結婚前は美容皮膚科の受付( 兼広報) してたとの事で、何となく低かった好感度が更に落ちた。これは『男女の答え合わせ』の読み過ぎかな、美容皮膚科勤務の勘違い自称モテ女ばかり出てくるからw