◆これまでのあらすじ
大手IT企業のマーケティング部課長・桜庭菜穂(30)。5歳下の人事部・澤石蒼人と交際したが、結婚への価値観が合わずに破局。居心地が悪くなった菜穂は、環境を変えようと転職を決意する。
▶前回:「私何やってるんだろう…」30歳で失恋し、寂しさからつい元カレと過ごしてしまった女の混乱
Vol.14 執着を手放した先に
大手IT企業から、外資系マーケティング会社への転職——。
「同じマーケティングの仕事だし、そんなに違わないだろう」と高を括っていた私は、初週からカルチャーショックに打ちのめされた。
原宿のガラス張りのオフィスは、カラフルで開放的。BGMが小さく流れ随分ポップな雰囲気だ。
そのオフィスでいきいきと立ち回る20代たちがまぶしい。若手がこんなにも多いのも、以前働いていた会社とは違う。
そして私には、25歳皮肉にも蒼人と同い年の男性トレーナーがついた。
「菜穂さんの資料、とても見やすくていいですね。でも、もっとシンプルでいいです。時間をかけずに作ってください」
「ここは、序盤からロジックがずれていると思います」
5つも年下のトレーナーから、いろいろなことを指摘される日々。会議でも、容赦なく突っ込まれる。この会社は実力主義…そう聞いていたが、想像以上だった。
― ああ…前の会社とは大違いだ。
思えば私は、前の会社では年次や肩書だけで重宝されていた。積み上げてきた社内の人間関係もあって、うまいこと仕事を推進することができた。
そんなのは、ここでは通用しない。それは怖いことだし、ストレスも感じるのだが…それ以上になぜかうれしかった。
年齢を脇に置いて、自分と社会がフラットに混じり合っていくような感覚。
― なんか、自分のありのままを見てもらえてる気がする。もしかしたら蒼人は、私にこんなふうにフラットになってほしかったのかな。
蒼人と一緒にいたときにすり合わせることができなかった私の価値観は、新しい会社で過ごせば過ごすほど、変わっていった。
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