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SPECIAL TALK Vol.129

~サックスと肉体は一体。パプアニューギニアでこの感覚が培われた~

令和のニューリーダーたちに告ぐ


世界最高峰の音楽大学のひとつと称されるアメリカ・ボストンのバークリー音楽大学。

サックス奏者の松丸 契氏は、全額奨学金を得てバークリーに入学し、首席で卒業した。それだけ聞けば、幼少期から専門的な音楽教育を受けた人物を想像するかもしれない。

しかし実際に、松丸氏が楽器の演奏を始めたのは中学から。しかも高校卒業までは独学だ。

さらには、これまでの人生の約半分にあたる3歳から18歳までを、外界と隔絶されたパプアニューギニアの山奥の村で過ごしている。

大学卒業後、日本に戻ってからは、ソロ活動と並行して、多くのミュージシャンと共演を果たしている松丸氏。その生い立ちと独特な表現活動を支える哲学に迫る。

松丸 契氏 サックス奏者・ 作曲家。1995年生まれ、パプアニューギニア育ち。パプアニューギニアの小さな村で高校卒業まで過ごし、独学で楽器を習得。米バークリー音楽大学を卒業後、2018年より東京を拠点に活動。石若 駿、石橋英子、ジム・オルーク、山本達久、大友良英、岡田拓郎、Dos Monos、betcover!!、浦上想起、Geordie Greepなど多くのアーティストと共演するほか、映画『白鍵と黒鍵の間に』(2023年)に役者として出演するなど活動の幅を広げている。2022年に『The Moon, Its Recollections Abstracted』をリリース。



金丸:本日はサックス奏者の松丸 契さんをお招きしました。お忙しいところ、ありがとうございます。

松丸:こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。

金丸:今日の対談の舞台は今年3月にオープンした麻布十番の『白翠』です。中華の名店『わさ』でも腕を振るったシェフが生み出す中華、そしてワインとのマリアージュが楽しめるそうです。

松丸:食事もすごく楽しみですね。

金丸:松丸さんはどんな食事がお好きですか?

松丸:和洋中、何でも好きです。強いて言うなら、一番は鮨かもしれません。

金丸:逆に、食べられないものはありますか?

松丸:バナナだけはダメなんですよ。

金丸:珍しいですね。私は今朝もバナナを1本、食べてきましたが。

松丸:体にいいですからね。僕の場合、アレルギーとかではなくて、パプアニューギニア時代に食べすぎたんだと思います。

金丸:確か、3歳からパプアニューギニアにお住まいでしたよね。

松丸:はい。そこらじゅうにバナナの木が生えていました。まだ緑の状態のときに房ごと切って、ベランダにつるす。熟れた順に包丁で切って、出かけるときに持ち歩き、おやつとして食べる。5歳のとき、それが嫌になって、それ以来食べていません。

金丸:3歳から5歳の間に、一生分のバナナを食べてしまったんでしょうね(笑)。

松丸:考えてみると、鮨が好きなのも、環境が影響しているのかもしれません。海へ行くのに9時間くらいかかるところに住んでいて、海の魚を食べる機会がなかったので。

金丸:海に囲まれた日本とは、まったく環境が違いますね。その後、アメリカの音楽大学に進学し、いまは日本を拠点に活動されています。もう、この経歴だけで唯一無二の存在です。

松丸:いやいや、音楽家には僕より面白い人がたくさんいますよ。だからお声がけいただいとき、「なんで僕なんだ?」って、すごく驚きました。

金丸:これまでこの対談では、箏曲家のLEOさん、尺八奏者の田辺しおりさん、ピアニストのハラミちゃんなど、さまざまな音楽家に登場いただいています。皆さん、いろいろな道を辿って、いまに至っていましたが、松丸さんは住居の遍歴だけを見ても、間違いなくユニークな存在です。そんな松丸さんがどのように育ち、これから先、どんな音楽を生み出していきたいのか、じっくり伺いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

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