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SPECIAL TALK Vol.129

~サックスと肉体は一体。パプアニューギニアでこの感覚が培われた~


新しいものと出合うために、独自のアプローチを


金丸:まず松丸さんの音楽活動について、簡単に教えていただけますか?サックス奏者として、さまざまなミュージシャンと共演することもあれば、ソロの演奏会もされていますね。

松丸:最近はサポートメンバーとして参加することが多いんですが、直近だと、5月に下北沢のライブハウスで単独公演をやりました。ステージも小さなライブハウスからフェスまで、大小いろいろですね。

金丸:いまは東京を拠点にされているんですか?

松丸:そうです。海外での公演もサポートでついていくことが多くて、今年は1月と2月に韓国に行きましたし、台湾や香港、ヨーロッパにも行く予定です。

金丸:サックスを演奏するときって、何かイメージされたりするんでしょうか?例えば「森の中」や「海」というような風景だったり、「嬉しい」「悲しい」といった感情だったり。

松丸:抽象的な概念からイメージを膨らませることもなくはないんですが、僕はどちらかというと、無機質なところからアプローチすることが多いですね。例えば「明るい」をイメージしながら音を出すと、自分の中の「明るい」と結びついたものしか出てこないように感じるんです。

金丸:なるほど。イメージすることで、逆に想起されるものが限定されてしまうと。

松丸:それに、演奏者のイメージと聴衆が受け取る感覚は、必ずしも同じではありません。聴いた人がどんな気持ちになるかというのは考えますが、それを優先することはないですね。

金丸:先ほどおっしゃった「無機質」というのは、具体的にはどのようなものでしょう?

松丸:感情とは離れた、フィジカルなところからのアプローチを試しています。サックスというのは、その重みを全部自分で支えるし、誰もが必要とする呼吸を音にしていく楽器です。それだけ楽器と演奏者が一体化しやすくて、頭で想像するもの、体で感じるもの、音楽として作り出すものがすべてつながっています。

金丸:私も昔バンドをやっていましたが、楽器が自分の体の一部になっていくという感覚はわかります。

松丸:音を出すことにおいて一番大事なのは、演奏のしやすさと効率の良さだし、そこに集中していても音楽的に成立させられる余裕を持ちたい、と個人的には考えています。

金丸:特に長時間のソロ演奏は、体力勝負ですからね。

松丸:僕は、90分間のアコースティック演奏をソロのひとつとしてやるのですが、これに関しては90分間吹き続けても、さらにあと90分間続けられるくらいの余裕はあるんです。

金丸:そんなに!相当体力があるんですね。

松丸:単純に体力がある・ないというだけじゃなくて、楽器と肉体が効率の良い関係性を築けていると、長時間吹いても大して疲労を感じないどころか、すっきりするくらいです。だから逆に、効率的ではない動きを意図的にやってみることで、新しいアイデアが生まれたり、今までにない音楽的な効果を得られたりするんじゃないかって。効率の悪いものが音楽の神秘的な部分や、言語化できないような感情に直接的に刺さる要素になることが多いとも思っています。

金丸:あえて定石を外すことで新しいものを探るというのは、研究者のような探究心を感じます。しっかりした技術があるからこそ、そういうアプローチを可能にするんだろうし、そこに松丸さんのセンスも関わってくるんでしょうね。

松丸:もちろん、風景を思い描きながら吹くこともあるし、ポップスも好きですが、ポップスはやっぱり大衆向けなので、寄り添わなきゃいけない。僕はたぶん、そこから結構離れたところにいるんだろうなって思っています。

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