
~兄に、家族に支えられて、もう一度オリンピックの舞台を目指す~
柔道人口が減る中で、続けられる環境を作りたい
金丸:ところで、日本の柔道人口って増えているんでしょうか?
阿部:残念ですが、減っています。
金丸:そうですか。オリンピックでフランスを訪れてびっくりしたんですが、街のあちこちに柔道場があるんですよ。日本でもなかなか見ないのに、日本以上に柔道が盛んだというのが視覚的にもわかりました。柔道はフランスの国技だ、と思っているフランスの子どもたちも多いみたいで。
阿部:日本は小学生の全国大会がなくなったり、中学校も部活動ではなくクラブチームが増えていたりと、柔道を取り巻く環境がいろいろと変わっていく途中のように感じています。
金丸:私が関わっているハンドボールも、部活動よりクラブチームに力が注がれています。学校の部活動と地域に根づいたクラブチーム、どちらも一長一短だと思いますが。
阿部:ただ、それまでずっと柔道をやってきた子どもたちに「学校に柔道部がないんだ。じゃあ、もう柔道はいいか」って思われたら、悲しいじゃないですか。だからクラブチームを増やすとか、もっと楽しんでやれるスポーツにしていくとか、何らかのアクションが必要だと思っています。そういう思いもあって、いずれはチームを作って指導者になりたいと考えています。
金丸:実現したら素晴らしいですね。お兄ちゃんとふたりでチームを作ろうものなら、それだけで超人気チームになるんじゃないかと。
阿部:あ、一二三とはやりたくないですね……。
金丸:えっ!?仲良しなのに。
阿部:いや、仲はいいんですよ。だけど、一緒にチームをやっていくとなると、ぶつかりそうで。
金丸:男子と女子で分ける、というのは?
阿部:いやー……。やっぱり一緒のチームはなんか嫌です(笑)。
金丸:分かりました(笑)。
阿部:柔道に関わり続けたいという思いはあるんですけど、一方で勝負の世界から離れて、新しいことをしてみたいという気持ちもあって。
金丸:柔道のほかに、例えばどんな分野に興味があるんですか?
阿部:農業とか。
金丸:農業!?なんでまた?
阿部:田舎で農業しながらゆっくり生きていきたい、みたいな。
金丸:私は政府の仕事で農業にも関わっていますが、農業ってやっぱり大変なので、よくよく考えたほうがいいですよ(笑)。
阿部:ですよね。私もいまは妄想しているだけのレベルなので(笑)。
一歩一歩積み上げて、ロスオリンピックを目指す
金丸:話は変わって、アスリートの待遇を日本と海外で比較すると、大きな差があると思います。例えばフランスの柔道選手、テディ・リネールさんはパリ・サン=ジェルマン所属のプロです。彼はむちゃくちゃ強くて、むちゃくちゃ活躍していて、しかもむちゃくちゃ稼いでいる。日本だと実業団はあっても、プロはありません。
阿部:いろいろな考えがあってのことですが、柔道家がプロ選手やプロの格闘家に進む場合、全国組織である全日本柔道連盟を脱退しなきゃいけないんです。
金丸:私はそういうこだわりは、すごくナンセンスだと思うんですよ。オリンピックにしたって、ものすごい額のお金が動いているけど、選手たちが儲けているわけじゃない。選手のセカンドライフを保証してくれるとか、年金を出してくれるんだったらいいけど。
阿部:いつまでも第一線にいられないというのは、アスリートに共通する悩みだと思います。
金丸:私はハンドボールのプロチーム「ジークスター東京」のオーナーであり、日本ハンドボール協会の会長です。そういう立場でスポーツに関わるようになってから、セカンドライフの問題に積極的に取り組むようになりました。日本ではハンドボールがマイナー競技ということもあって、選手たちには「引退後のことをちゃんと考えて、何かしら準備しておくように」と伝えるようにしています。そしたら、うちのチームから引退後に宅建を取った選手も出てきているんですよ。
阿部:すごいですね。何か資格を取るというのは、私もいいなって思います。勉強は嫌いじゃないので。
金丸:次のロスオリンピックの時、阿部さんは28歳ですね。
阿部:出場して、金を獲りたいです。だけど、ロサンゼルスで開催されるというだけでも楽しみで。これまで行ったことがないから、どんなところなんだろうって。
金丸:出場するためには、まず国内の選考で選ばれなければいけませんね。
阿部:国内のレベルが高いから、一歩一歩積み上げていかないと。
金丸:人生100年時代ですから、ロスオリンピックのあと、現役続行にしても違う道に進むにしても、まだ72年もあります。だから、どんなことにも挑戦できますね。
阿部:そうですね。柔道のクラブチームを作るとか農業とか、いろんなことに興味があって、全然定まっていないんですけど。
金丸:阿部さんのインスタを見ていると、柔道家としての姿だけでなく、モデルのお仕事をされていたり、日々の生活を楽しんでいる様子が並んでいたりと、これまでの柔道家のイメージをいい意味で壊していける存在じゃないかなと感じています。そんな阿部さんを見て、「かっこいい」「面白そう」と興味を持ち、柔道を始めた子がいるはずです。そういう子どもたちに何かメッセージをいただけませんか?
阿部:そうですね……。柔道に限らず、なんでもいいので、「続ける」ことをしてほしいです。私は柔道を始めた頃、周りに「才能がある」と言われてもあまり練習熱心じゃなくて、嫌になった時期もありました。正直、立ち直れないくらいつらいときもありました。それでも一歩を踏み出せば、必ず道が拓けるはずです。
金丸:これからもますますのご活躍を願っていますし、ロスオリンピックでは、阿部さんの金メダルを見届けたいと思います。今日は本当にありがとうございました。