宏伸さんからのLINEの内容は『今週末会えませんか?』というシンプルなものだった。
それだけでも、水を得た魚のように呼吸がしやすくなる。私はあえて時間を置いてから「はい、日曜日はどうでしょうか?」と返事をした。
そして、約束の日曜。
私は早起きしてしっかりとメイクを施し、いつもはしないハーフアップにして、ヘアセットまで頑張ってみた。
ランチの場所として指定されたのは、六本木の中華料理店。
個室に案内され、宏伸さんが笑顔で出迎えてくれる。
「今日は前回の反省を活かして、ちゃんと予約をしてきました」
照れたように言う宏伸さんを、可愛らしいと思った。
食事は美味しく、会話も初回のデート以上に盛り上がった。特に宏伸さんが、趣味の鉄道について語ってくれたのが面白かった。
少年のように夢中に、でも、私を置いていかないようにわかりやすく噛み砕いて話してくれる。初対面ではコミュニケーションがあまり得意ではないように見えた宏伸さんだが、案外会話のテンポが合う。
もっと彼を知りたい。食事が終わる頃には、純粋にそう願っていた。
「はあ〜満腹!宏伸さん、ここのお店とっても美味しかったです」
「美味しかったですね。このあとは、六本木ヒルズの美術館なんてどうでしょうか?手塚治虫の展示をやっているみたいで」
「いいですね!私も気になってました」
「よかった。じゃあ、とりあえずお会計してきます」
私は慌ててお財布を出すが、宏伸さんは笑顔で首を横に振る。
― ああ、素敵な人だな。
実際のところ、大手保険会社営業の勇斗さんのほうがタイプではあった。でも、1週間も連絡がないことを思うと、彼はきっともう自分に興味がない。
― だったら、どうにか、宏伸さんと…。
個室のドアが開き、宏伸さんが帰ってくる。
「お会計ありがとうございます。ごちそうさまです。美術館は、私がお出ししますね…」
私の声のボリュームが徐々に下がったのは、あんなにニコニコしていた宏伸さんが、なぜか真顔のままだったからだ。
「あの…宏伸さん、何かありましたか?」
すると宏伸さんは席にゆっくりと座り、突然頭を下げた。
「菜穂さん、ごめんなさい」
「え?」
「デートはここまででもいいでしょうか」
私は戸惑いながら、支払いに何か問題があったのだろうかと思った。うっかりお財布を忘れたとか、そんなことかと。
しかし、宏伸さんが口にした言葉は、予想外のものだった。
この記事へのコメント
アプリだし菜穂も複数人とデートしてたんだから、まぁ相手も同じだろうし仕方ないよ。
相談所で様々ダメ...続きを見る出しされて婚活に疲れが出始めた頃、時短勤務の同僚との対談で彼女に既婚マウント取られて落ち込み、元カレに連絡とかそんな話の流れか?笑