2025.03.21
SPECIAL TALK Vol.126
数学の世界と音楽の世界。ふたつの軸で道を切り拓く
中島:東大はその頃、部室で24時間、音出しが可能だったので、ジャズ研の部室には東大生だけじゃなくて、学外の人も出入りしていて、よくセッションをやっていたんです。
金丸:ミュージシャンのたまり場みたいになっていたと。
中島:それがすごく楽しかったんですよ。
金丸:ジャズはもともとお好きだったんですか?
中島:大学に入って、最初にやろうと思ったのがジャズでした。ジャズって定義が難しいですが、技巧がどうこうというより、その人となりというか、内心のどろどろの部分まで見えるように感じていて。
金丸:ロシア小説と同じですね。だけど卒業後、いきなりプロのミュージシャンになるとは。
中島:自分でバンドを組んでライブハウスで演奏したり、「渋さ知らズ」という、100人くらいのビッグバンドのメンバーになったりして活動していたんです。「渋さ知らズ」で海外公演にも行きました。
金丸:高校のときは数学を通じて世界を見て、大学では音楽を通して世界に飛び出して。中島さんは、何にも縛られない自由さがありますね。
中島:実は在学中に、音楽活動と平行して教育事業もちょっとずつやっていました。高校ではあまり触れない、現代数学の面白さを体験的に伝えることをしていたら、数学に限らずいろいろやるように。
金丸:steAmを立ち上げたのは、いつですか?
中島:2017年です。よりワクワクする創造的学びを推進したいという仲間とともに、コンサルティングだけでなく、実証も多数やっています。
金丸:実証もやる、というのがいいですね。コンサルタントの中には、机上で計画を作ることはできても、それを形にすることができない人が少なくありません。私は「実装ができてこそ価値がある」と思っています。例えば、音楽を語る人がいるとします。「じゃあ、一曲演奏してください」ってお願いして、「私は楽器は弾けません」って返されたら、「さっきまで語っていたことはなんなんだ!?」ってなるじゃないですか。
中島:それに、単純に「自分で作れると楽しい」というのもありますよね。私は2018年から2年間、ニューヨーク大学に留学したんですが、Tisch School of the Artsという芸術学部の中のテクノロジー部門みたいなところで学びながら、その間も実証事業を続けていました。
金丸:今度はテクノロジーですか。興味のおもむくままというか、面白いと思ったときにすぐ行動に移す姿勢が素晴らしい。
中島:実は、行く前までプログラミングなどはあまり面白いと思っていなかったんですが、AIやAR(拡張現実)を学んですぐ、「さあ、あなたは何する?」と問われると我然、面白い。まさにSTEAMだと。
金丸:そして、万博のテーマ事業プロデューサーに就任。あちこち分野を横断しているうちに万博にたどり着いたというのは、他のプロデューサーと比べてみても、ユニークな経歴ですよね。中島さんが担当するパビリオンの名称は、「いのちの遊び場 クラゲ館」。不思議な名前ですが、どうしてクラゲなんでしょう?
中島:紆余曲折を経て(笑)。パビリオンの基本設計を担当された建築家の小堀哲夫さんとともに何度もワークショップを繰り返しながら、思いを引き出して形にしていきました。
金丸:じゃあ、クラゲは中島さんの中から引き出された?
中島:私からというより、集まったみんなから。小堀さんはものすごく才能豊かで面白い方なんですが、自分が引っ張っていくというよりも一緒に作っていくタイプで。2020年、まだほかのチームが動き出していない頃から、数学者、教育者、芸術家など多様な人が毎週のように小堀さんの事務所に集まって、いろいろな話をしました。その時々の話題から何が出てくるか分からない「闇鍋会議」なんて、私たちは呼んでいましたけど。
金丸:闇鍋(笑)。いったいどんなことを話し合ったんですか?
中島:「万博ってなんなんだろう」とか「今、万博をやる意味ってなんだろう」という万博自体への問いや、私たちのテーマに基づいて「いのちが高まるのって、どんなときだろう」みたいな。
金丸:コンセプトをはっきりさせるための「闇鍋」だったんですね。
「しなきゃいけない」ではなく、「やりたくてしょうがない」に
中島:データや言葉に表しきれないものってあるじゃないですか。いま、急速にAIが発展していますが、データにできないものはAIにも伝えられない。
金丸:音楽もそうですよね。譜面にすることで、誰でも演奏できるようになるけど、「すごい!」と感動した演奏を、そのまま再現できるわけじゃない。
中島:闇鍋会議では、「創造性やいのちには遊びが欠かせない」「ルールの決まった遊びじゃなくて、余白のある遊びがいいよね」という意見が出ました。
金丸:なるほど、余白ですか。デジタルの世界ではすべてを0と1で表現しますが、それでは表せないもの、伝えられないものがある。
中島:「余白やゆらぎをどう表現しよう」と考えているうちに、「パビリオンは閉じた箱じゃなくて、半屋外がいいよね」「だったら半透明?」なんて話が出てきて。
金丸:半透明といえば、クラゲ?
中島:そうです。「みんなでクラゲを見に行こう!」って。
金丸:面白いですね。言われてみれば、漂っているクラゲの姿は、まさにゆらぎ。
中島:クラゲ館に遊びに来て、原始的な身体性を感じたり、それを通じて自分の中のいのちを感じてもらえたら嬉しいですね。見終わったあとに「自分も何かできるんじゃないか」と一歩踏み出したくなるようなエネルギーを伝えたい。
金丸:日本人の中で、自分の未来を明るいと思っている人って、本当に少ないじゃないですか。だからクラゲ館を訪れた人には、自分の未来にポジティブになって帰ってほしいですね。「自分はこれがやりたい」「自分はこうありたい」という気持ちって、新しいものを生み出すのに欠かせないですから。
中島:そうですね。創造力を刺激されて、未来に向けて何かやりたくなっちゃうような、そういう喜びとか自信がつくようなパビリオンにしたいです。
金丸:中島さんという存在を具現化したようなパビリオンになれば、きっとみんなが元気をもらえるのではないでしょうか。私もお話を伺って、たくさんの元気をいただきました。興味の対象が子どもの頃は音楽から数学へ行き、大学で数学からまた音楽に戻り、さらにはテクノロジーへと広がって、幅広い分野で活躍されています。日々お忙しいでしょうが、その分、とても楽しそうに見えます。
中島:楽しいのは間違いないです。
金丸:「できない」「分からない」ことも楽しいとおっしゃいましたが、それは中島さんにはどれだけ時間がかかっても乗り越えられる、という成功体験があるから。この必ず達成できるという自己肯定感が低い子どもだと、ちょっとした壁も苦痛に感じて、「無理だ」と引き返してしまいます。
中島:確かに乗り越える喜びはありますが、たとえ乗り越えられなかったとしても、そこでの経験は次の成功につながるはずです。
金丸:だから日本も、プロセス自体を楽しめるような教育にどんどん変わっていかないといけません。
中島:そうですね。「しなきゃいけない」でなく、「自分も未来のカケラを生み出せるのでは」という多様なワクワクを、もっと感じられるような社会になってきたらいいなあ、と思っています。
金丸:万博のスタートはいつでしたっけ?
中島:4月13日から。開催期間は10月13日までの半年です。
金丸:では、もうすぐ始まりますね。
中島:万博には世界から約160の国や国際機関が参加するので、それもまた面白いはず。会場では、世界旅行をしている気分になれると思います。
金丸:万博をきっかけに「もっと世界を見てみたい」「海外で挑戦してみたい」という人が増えるといいですね。中島さんは枠にとらわれず挑戦し続けることで、子どもたちや女性たちを勇気づけていらっしゃいます。私もまだまだ挑戦を続けないと。まずは万博が大成功することを祈念しています。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
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