運命なんて、今さら Vol.9

彼と初めての夜デート。22時半、「まだ帰りたくない」と思った28歳女は…

心の言葉が聞こえてしまったようで、寿人は固まる。

「今日、私がしたかった話は、このことです。別れ話を切り出してから3ヶ月くらいかかったけれど…本当に終わりにできました。完全に別れました」

「…それは、よかった」

しばし沈黙が訪れる。半個室の外から、キッチンで調理をする音が聞こえてくる。

「心配かけてごめんなさい。ああ、今、ご飯が本当においしい」

前菜の生ハム、トリッパの煮込み、アランチーニ。涙を目尻に残したまま、幸せそうに食べ始める結海を見て、寿人は心底ほっとした。

「結海が別れた=自分が付き合える」という単純な考えは、浮かばなかった。

ただ、結海が受けた傷について想像して、寿人はひそかに涙をこらえていた。

《結海SIDE》


ウニのパスタは、あっという間になくなってしまった。空になったお皿をじっと見ていた結海は、寿人の視線を感じ、ハッと顔を上げる。

「パスタ、追加しますか?」

「へ?」

「結海さんが、お皿をじっと見てるから。もっと食べたいのかなって」

寿人が笑う。優しくからかうような、結海が初めて見る表情だった。

「もうお腹いっぱいです。でも、また来たいです」

― やっぱり、好きだ。寿人さんのこと。

寿人と出会った夜を思い出す。こするように何度も思い返した、あの楽しかった時間。穏やかで、会話のテンポが心地よくて…。

今、あのときとまったく同じように心が温まっていた。

寿人が、結海のグラスに白ワインを注いでくれる。ボトルが、空になってしまう。

「このお店。僕も気に入ってるんです」

「へえ。寿人さんって、よく外食するんですか?」

「はい、友達と色んなお店に行きます」

結海は少しだけ意外に感じ、寿人のことをまだ何も知らないのだと思い知らされる。

自分たちは、まだ、何も進んでいないのだ。

研哉をうまく切れず、こんなにも時間がかかってしまった。

なのに寿人は、連絡をしてくれたり、今日みたいに心配で誘ってくれたり、ずっと待ってくれていて…。

― 奇跡だ…。

こんなに優しくて、穏やかで、一緒にいて楽しい人に出会えたことが、結海はうれしい。


「デザート、頼みますか」

時刻は22時半。時間の流れが早すぎる、と結海は驚く。

― 帰りたくない。

言ってしまえば、寿人を困らせてしまうだろう。

でも、帰りたくない。

この慣れないセリフを、今夜なら言ってしまえる。

結海は、そんな気がした。


▶前回:「彼女の通話履歴を見て…」28歳男のヤバい行動。爽やかエリート社長の裏の顔とは

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT:3月12日 水曜更新予定
結海が「帰りたくない」と告げたら、寿人は…?

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この記事へのコメント

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No Name
結海は不思議ちゃんと言うか、時々言動が変だよね。
今日は二人でイタリアン食べただけ。相変わらずのスローテンポ!
2025/03/05 05:1715
No Name
今夜は帰りたくないと行っても、昨日から妹が家に来てベッドルーム占領してて邪魔だから 結海の家に行くしか選択肢ない気がするけど。
そこで研哉が待ち伏せしてて修羅場?
2025/03/05 05:2712返信1件
No Name
家行ったとき妹の置いて行った化粧品とか勘違いすなよ
2025/03/05 05:307返信2件
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