2025.01.02
常々、港区を追ってきた東カレだが、今回は日々、港区に生きる人たちを観察し続ける作家の麻布競馬場さんに登場願った。
対談形式で港区の今を考察いただきつつ、特別企画として、2024年の港区を象徴するエッセイを寄稿してもらった。
◆
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「好きなお店との関係性を深める人が増えていますね」
編集部:麻布競馬場さんは、毎日のように港区でフィールドワークを行っているとお聞きしました。日々生活していく中で、2024年に感じた傾向のようなものはありますでしょうか?
麻布:そうですね。大きくは、新しいお店を発掘して通い始めるというより、ひとつの店を深めるような使い方をしている人が多かったのかなと思います。
予約困難店のような場所に行き続けるというより、もうちょっと気軽な価格帯で予約も取りやすい店。そこに通って、関係性をしっかり作っている人が多い気がします。
コロナ禍を経て、信頼できるお店を重要視する流れができたのではないかと思います。例えば、カウンター10席ぐらいで、料理も美味しく、店主とゆったり会話ができるようなところですね。
編集部:なるほど。確かに、そういったお店は評判をよく耳にしました。今号で2024年を象徴する新店12軒を取り上げていますが、カウンター和食の『白金 芯』などがそれに当たりそうですね。
麻布:お店との関係性ができると、デートでも会食でも使いやすいですし、お店に自分好みのメニューを作ってもらうような知人もいました(笑)。
自分のことをわかってくれているお店を2〜3軒持って、気ままに楽しみたい。自分の城を持ちたい、という人が多かったと思います。
そういう意味では、昔からある店はすでに常連さんがいますし、予約困難店だとそもそも頻繁に訪れることができない。その合間を縫うようなお店をみんなが探している印象でした。
編集部:最近では、新店でもすぐに予約困難になる店もありますね。
麻布:そうですね。前の修業先からお客様を引き継いでいたり、事前にポップアップなどをやって、お客様と関係性を作った上で開店というケースもありますね。
周りでは、そういったお店のインスタのフォロワーから共通の知人を見つけては、ご一緒させてもらうような人も見かけます。界隈では「常連泥棒」と言われているようで(笑)。
おばんざいとスナックの時代
編集部:とはいえ、一昔前はインスタで訪れた店をドヤるような感覚もありましたが、それも薄れた気がします。
麻布:予約困難店もグランメゾンも変わらず健在ですし、いずれも需要は高いと思います。ただ、以前東カレが提示したような「“ロブション”に30歳になるまでにデートで行けたらイイ女」のような価値観は薄まってきて、お店選びもより多様化していますよね。
先日、女子大生の子に記念日ってどこに行くの?って聞いたら、渋谷の『アウレリオ』に行きました、っていうんですね。最近の若者たちは、派手さよりも堅実な美味しさや楽しさを重んじているのかと感心したんです。
僕は91年生まれの33歳ですが、僕の頃はグランメゾンのようなしっかりしたレストランに行って、プレートを持って写真撮るみたいなのが普通だったので。
今は、そういう自己顕示欲よりも、リアルで本当に楽しくて、満足できるか?という部分を大事にしている人が多い気がします。
編集部:なるほど。ここ最近の港区は、女将がいるようなおばんざい店が急増しているように見えるのですが、今の“本当に楽しくて満足できる”という話に通じる気がします。
麻布:2022年頃から、謎の美人女将が手軽なおばんざいと高いシャンパンを振る舞って……みたいな店が増えてきた実感がありますが、それはさておき、改めて飲食店のスナック化が加速していますね。
この令和という時代はおばんざいとスナックの時代ともいえますね。というのも、皆居心地の良い空間を求めているんだと思います。女将やシェフの距離感も丁度良く、そこにおばんざいがハマる。いかにも料亭出身で……とか、そういう肩肘張った料理ばかりじゃ疲れちゃう。
家庭料理のような気軽さを装いつつも、しっかり美味しい。そこにお酒があれば、我らで勝手にやりますからと(笑)。
編集部:すごく腑に落ちます。ああいうお店の女将は、総じて美しくて驚きます。
「楽しいお店が選ばれている。美味しいもあって、楽しいがいい」
麻布:最近、仲間内でもよく出てくるキーワードが“美味しいよりも楽しい”なんですよ。そういう意味で言うと、2024、西麻布にできた2軒はそれを体現している気がします。
編集部:それは実に興味深いです。どういったお店なんでしょうか?
麻布:一軒は、以前『西麻布 壌』だった場所にできた『たこあわ』さん。こちらは、『ゴブリン』や『Cave de ASUKA』など、西麻布を中心に数店舗を構えている林 竜平さんが開いたお店で、その名の通り、たこ焼きと泡のお店です。
最近のお店では珍しく、夜中の3時までやっていて、賑わっています。外に面している席があって、そこから人が行き交う様子を見るのが好きです。
あとは、『呑み屋 ぺりどっと』なども、コの字カウンターの中心に店主の橋本さんがいて、耳ざとい港区界隈の人たちや飲食店関係者などで賑わってます。
編集部:どちらのお店も、西麻布で話題になっていますね。実際に訪れて、すごく賑わっていましたし、楽しかったです。
2024年を象徴するお店として、下に紹介させていただいた白金『PAOZ』や、赤坂『hakbo』なんかを見ても、どこも美味しい+@があります。こういった、ユニークなお店が次々とできるのも港区の面白さですね。
麻布:コロナ禍が終わって、移動も自由になった今、お金を持っている人はみんな地方や海外に遊びに行っちゃいます。週末は、富山の『レヴォ』に行ったり、デンマークの『ノーマ』(2024年末で通常営業は終了)などですね。
自由に動けるようになった分、自分の“楽しい”に忠実に行動する人が増えたのだと思います。で、東京にいる時は予約困難店にも行くけど、サクッと行ける自分の城もしっかり持っているのかと。
自分が好きなお店には、自分に似た人が集まるので、居心地がいいですよね。価値観や選択肢が多様化している時代なので、飲食店との関係性をより深く考えていく必要がありますね。
編集部:そうですね。港区はグルメでも東京イチの街ですし、新しいお店も続々誕生しています。そこから自分に合うレストランを探し、良い付き合いをしていく、というのが正解ですね。改めて、ありがとうございました!
■プロフィール
麻布競馬場 1991年生まれ。コロナ禍にSNSに投稿した文章が話題を呼ぶ。著書『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)でデビュー、2作目の『令和元年の人生ゲーム』は直木賞候補にノミネート。
X ID:@63cities
◆イチオシ2軒はココ!
「うまい中華を軽くつまみながらワインか紹興酒をダラダラ飲む、という夢のような時間が住宅街のど真ん中で」と麻布競馬場さんが推す『PAOZ』。
白金の五之橋近くのビル入口から内階段で2階へと上る動線の理由は、オーナーの自宅を改装して造ったから。
チンチラの椅子はあるがカラオケがないので、スナックとはいえ落ち着いた時間が過ごせる。
メニューを見ると点心や「台湾腸詰め」などお酒が進む飲茶の一品がずらり。
スナックに欠かせないゆるゆるした時間のなかで、中華のアテとともに夜が過ぎていく。
■店舗概要
店名:PAOZ
住所:港区白金3-4-16 2F
TEL:070-9106-0557
営業時間:【月~木】ランチ 12:00~14:00
ディナー 18:00~23:00
【金・土・祝前日】16:00~25:00
【日・祝】16:00~23:00
定休日:不定休
席数:カウンター6席、テーブル8席
麻布競馬場さんが「音楽や空間づくりを含めて、単なる“美味しいお店”を超えた“楽しい酒場”。ここが似合う大人になりたい」と羨望の眼差しを送る一軒。
カウンターにDJブースがあり、レコードやフィギュアが所狭しと置かれている店内は、まるで大人の遊び部屋。
広々としており、段差があったり小上がりがある造りは、いろいろなシーンでフレキシブルに使える。
“音楽酒場”を謳い、自慢は日本酒。
わさび漬けを隠し味にしたサンドイッチなど遊び心のあるアテもいい。
赤坂で音楽と日本酒に酔いしれたい。
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