「そ、たった今」
そう言いながら秀治さんはスマホを取り出し、俺に向かってLINEの画面を見せた。
「実は今、アプリで出会った子といい感じなんだけど…今日が誕生日らしいから、ちょうどさっきLINEギフトを贈ったところなんだ」
「LINEギフト…?」
「女性に特別な気持ちを伝える方法といえば、やっぱりプレゼントだろ?」
そう豪語する秀治さんは、その女性との初デートのあとも、本気度を伝えるためにLINEギフトを贈ったのだという。
そのおかげで無事に2回目のデートへとつながり、次はいよいよ勝負の3回目。
その前に今日が彼女の誕生日当日であることを知った秀治さんは、たとえ会えない日でもお祝いするチャンスを逃さないよう、こうしてギフトを贈ったところなのだとか。
― へえ…。秀治さんみたいな人でも、こうやってマメに行動してるんだ。
そんなことを考えていると、秀治さんは何杯目かのグラスを飲み干しながら俺をせっついた。
「いいか?光輝。クリスマスがすぐそこへと近づいた今、男はみんな、好きな人のサンタクロースになるべきなんだよ。
そうだ。お前も誰かに贈ってみろよ。好きな子はいないのか?」
俺はおずおずと秀治さんに尋ねる。LINEギフトの存在は知っているけれど、実際に使ったことはない。それというのも、少しハードルが高いように感じていたからだ。
「いや、あの…。彼氏でもない男から急にプレゼントが贈られてくるって、女性からするとちょっと重くないですか?」
けれど、俺がそんな疑問を投げかけるなり秀治さんは、「わかってないなぁ」という表情を浮かべてビールを口にした。
「いやいや、むしろ逆だよ!たとえ会えなくても、住所がわからなくても、重くならずに気軽に贈れるのがいいところだ。
それに、別に好きな女性に贈るだけが使い道ってわけじゃないぞ」
どうやら秀治さんは、日常生活のプチギフトとしても活用しているらしく、先日も女友達にちょっとしたお礼として『ヘアオイルとハンドクリームのセット』を贈ったところ、「センスいいね!」と喜ばれたことを教えてくれた。
「へえ、そういうものなんですね。じゃあ…俺も、昔からの女友達に贈ってみようかな」
「そうだ光輝。男たるものサンタクロースになるんだ!」
冗談めかして言う秀治さんだったが、女性に対する細やかな気遣いができ、日頃の感謝の気持ちを伝えられるのは、男性としての魅力であることに間違いない。
そして、秀治さんのようなスマートな男性になるためには、メッセージと同じ気軽さでプレゼントを贈れるギフトはピッタリな方法に思えた。
「おっ。そう言ってるうちにありがとうの返事が来たぞ…うん、すごく喜んでくれたみたいだ。ホラ、お前も頑張れよ」
横で喜ぶ秀治さんに背中を押された俺は、早速LINEを立ち上げる。
「じゃあ、やってみます」
そして、学生時代からの気軽な女友達である由紀の名前を見つけると、LINEギフトの中から由紀の喜びそうなコスメのギフトを選んで、簡単なメッセージと共にプレゼントしてみたのだった。
由紀から返事が返って来たのは、ちょうどタクシーに乗る秀治さんを見送った直後のことだった。
『光輝!急にプレゼントなんか贈ってきてどうしたの?普通に嬉しいんですけど!』
笑顔の絵文字がついたメッセージを見ると、由紀が驚き以上に喜んでいることが伝わってくる。やっぱりLINEギフトは、急に女性を呼び出したり、改めて住所を聞き出したりするよりも相手に気を遣わせないスマートな方法のようだ。
『いや、この前も食事に付き合ってもらったし。そういえば由紀にはいつも世話になってるなーと思って』
『それは確かにそうだね笑』
『おい、お互い様でもあるだろ』
由紀と連絡を取り合うのはしばらくぶりだったけれど、その後もLINEのやりとりは続き、途中からは通話にまで発展した。
そして、会話は盛り上がり──。
お互いにクリスマスに予定のない者同士だということがわかった俺たちは、どちらからともなく、クリスマスに一緒に過ごす約束を交わしたのだった。