2024.12.12
オトナの5分読書 Vol.37
脳を育て、正常に働かせるために必要な睡眠時間は、研究により発表されています。
世界の小児科医から最も利用されている小児科医の教科書「ネルソン小児科学」によると、小学生の理想の睡眠時間は約10時間。18歳でも8時間15分です。
一方、厚生労働省が行った調査によると、日本全国の小学生の平均睡眠時間は約8時間。さらに経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表したデータでは、日本人の平均睡眠時間は7時間22分であり、全体平均である8時間28分より1時間以上も短く、加盟33カ国中、最も睡眠時間が短いことが報告されています。
つまり、日本人は、大人も子どもも必要な睡眠時間に対し、1~2時間も足りていないということになります。とはいえ忙しい毎日の中で、理想の睡眠時間を確保することが難しい人も多いと思います。
ですから小学生なら9時間以上、中高生なら8時間以上、大人はできれば7時間以上を目安に睡眠時間を確保することをお勧めします。大人でも睡眠時間が7時間を下回ると、脳は正常な機能を保てなくなります。
人間にとっての睡眠は、体や脳を休ませることはもちろん、脳を効率よく働かせるためにも不可欠です。ぐっすり眠った直後の脳はすっきりと整理整頓され、新しい知識を入力する準備が整っています。
実際「夜中にやると2時間かかる勉強や作業が、朝取り組んだら半分以下の時間で済んでしまった」という経験をしたことがある方も多いでしょう。
朝は脳がクリアなことに加え、通勤・通学などおしりの時間が決まっているため、脳の作業速度が自然と上がります。決められた時間内で頭をフル回転させ、情報を処理していくことで鍛えられます。
②脳の発達には守るべき順序があることを理解する
規則正しい生活や睡眠時間に私がこだわる理由は、人間の脳が発達する順序にあります。
人間の脳は、生後約18年かけて大きく3段階に分かれて発達します。私はこの3つのパートを発達する順に「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」と呼んでいます。この順序が変わることは決してありません。
最初に発達する「からだの脳」は、脳の中心部に位置し、大脳辺縁系や視床下部、中脳などを指します。呼吸や体温調整、寝る、起きる、食べる、体を動かすといった極めて原始的な機能を司る、人間の生命維持装置に当たる部分です。
次に発達するのが、脳の外側を広く覆っている「おりこうさんの脳」です。脳のしわの部分である大脳新皮質を指し、読み書きや計算、記憶、思考、指先を細かく動かす微細運動などをコントロールしています。中心部の「からだの脳」が原始的な動物にも備わっているのに対し、外側部分の「おりこうさん脳」は、進化の過程で発達した人間らしさを司る機能を担います。
そして最後に発達するのが「こころの脳」です。「おりこうさんの脳」の一部である前頭葉と「からだの脳」をつなぐ神経回路のことを指します。「こころの脳」が発達すると、論理的思考力や問題解決能力、想像力、集中力などが身につき、物事を論理的に考えたり、衝動性を自制できたりするようになります。
3つの脳はそれぞれ発達するタイミングが決まっており、
0歳では「からだの脳」
1歳頃からは「おりこうさんの脳」
10歳頃から「こころの脳」が発達します。
「からだの脳」は生きる上で最も大切な脳であり、0~5歳にかけて盛んに育ちます。
この「からだの脳」を育てるために必要なのが、規則正しい生活と十分な睡眠時間です。幼少期はとにかくよく食べ、よく動き、よく眠ることで、「からだの脳」を育てることがなによりも大切です。
「からだの脳」が育たないことには、後に続く「おりこうさんの脳」も「こころの脳」も上手く育たないため、脳全体の土台部分といえます。
特に5歳頃までの子どもは、何をおいても脳の土台となる「からだの脳」を育てることが重要です。しかし、この時期に早期教育や習い事を始める家庭は少なくありません。
習い事などで刺激される「おりこうさんの脳」ばかり刺激された子どもは、幼少期は大人の言うことをよく聞く「賢くておりこうさんな子」として周囲の評判も上々でしょう。
ところが小学校高学年から中学生くらいになると、不登校や摂食障害、不安障害など、さまざまな問題を抱えるケースが非常に多く見られます。
「からだの脳」が育つ前に「おりこうさんの脳」ばかり育ててしまうと、脳全体がアンバランスな状態になり、やがて心の問題として顕在化してしまうのです。
繰り返しになりますが、脳の3つの機能には発達する順番があり、それぞれのバランスをとることがとても重要です。
脳を1軒の家にたとえるなら、1階が「からだの脳」、そして2階に「おりこうさんの脳」があります。この家を作る際、1階部分がまだ完成していないのに、2階部分から作り始めてしまうと家全体が崩壊します。
まずは1階部分を作り、ある程度形ができてから2階部分に着手する。そして最後に1階と2階をつなぐ階段部分にあたる「こころの脳」が完成するのです。
たとえば、先を見通し、ゲームやタブレットの使用時間を受験のために自分で制限し、目標達成のために必要な努力をすることは、まさしく「こころの脳」の働きです。
「こころの脳」は一般的に10歳前後で育つと言われていますが、個人差があるため10歳という年齢は1つの目安に過ぎません。10歳になったからといって一概に育っているとは言えず、自己管理ができるかどうかは子どもの様子を観察することでしかわかりません。
この「こころの脳」が発達して、はじめて受験勉強に向き合えるのだと思いますが、脳の発達には個人差がありますから焦りは禁物です。
③幼少期の短期的な評価より、中長期的な脳育てを優先する
人間はゆっくり成長する生き物です。そして成長には個人差があります。
周りの子どもと自分の子どもを比べ、「あの子はもうアルファベットがすらすら読めるのに、うちの子はまだ一文字も読めない」などと慌てる必要はありません。
「年齢の割にしっかりしている」とか「もうアルファベットが読める」という短期的な評価を得る代わりに、中長期的な問題を抱えるリスクを犯してまで早期教育をする必要があるのか、私には疑問です。
それができないのであれば、中学受験は一旦諦め、3年後の高校受験のタイミングまで子どもの脳が育つのを気長に待ちましょう。
冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、まだ十分に発達していない脳に無理やり知識を詰め込むより、長い目で見ればその方が脳育てにはいいと言えます。
中学受験の合否は、人生の成功と失敗に直結するわけではありません。仮に志望校に全て落ちても公立中学という受け皿があります。
悲しみという情動を「こころの脳」の働きで前頭葉につなぎ、「志望校には行けなかったけど、受験勉強で学んだことはこの先の人生でもきっと役に立つはず」などとなんとかいい方向に考えようとします。
一時的には辛くても、長い目で見れば「こころの脳」の発達を促す経験として、子どもにとっても大きな成長の糧となり得ます。
◆
「あと伸びする子ども」の育ちは、その時の同年代の子どもと比べると劣って見えるかもしれません。
子どもの脳の発達には、時間がかかります。親にできることは、焦らず、信じて待つこと。「待つ」というのは、心に余裕がなければできません。
大丈夫、親が笑顔の家庭では、子どもの脳は必ずよく育ちます。
今回紹介した『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略——中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)のすごいところは下記に集約される。
①脳科学の知見に加えて、さまざまな具体的事例、そして著者自身の子育て経験から子どもの脳を賢く健やかに育てるポイントが学べる。
②記事では紹介しきれなかったが、本書では、著者の娘さんのコラムがあり、実際に著者が実践した子育ての結果、どんなふうに感じたかをリアルに伝えてくれているのが参考になる。
【著者】 成田奈緒子(なりた・なおこ)
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。
1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。
現在アクシスにおいて発達障害や不登校、引きこもりなど、延べ7,000人以上の悩みを持つ親子の問題解決にあたる。
著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春新書インテリジェンス)、『高学歴親という病』(講談社+α新書)など多数。
▶NEXT:2025年2月13日 木曜更新予定
▶前回:「円安の今こそハワイへ」投資生活45年超の85歳・現役投資家が勧めるワケ
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