しかし、南帆の言葉は違った。
「実は、私…料理が苦手なの。いや、正確に言えば、あんまり好きじゃないんだ」
その言葉に一瞬驚いたが、次の瞬間、思わず笑みがこぼれた。彼女の正直さに、そして自分自身もまた、彼女を無理させてしまっていたことに気づかされたからだ。
「ごめんね、僕も任せっきりにしてた。君の気持ち、全然わかってなかった」
南帆は一瞬言葉に詰まったが、続けた。
「でも、亮平を喜ばせたいって思うの。それは本当。でも、無理して料理を作ることじゃなくて、もっと違う形で伝えたい」
そう言って、彼女は僕の目をまっすぐとらえた。
「私、自分の気持ちをちゃんと伝えるのが苦手で…だから、こんな風に言葉にすることもあまりなかったけど、これからは正直に向き合っていきたい」
僕は彼女の言葉に耳を傾けた。そして、静かにうなずいた。
「僕も、もっとちゃんと伝えるべきだった。ポテトサラダのことも、ただ食べたいんじゃなくて、君の作ってくれる料理が好きなんだっていう気持ちを伝えたかったんだよ。これからは、もっとお互いに正直になろう。僕たちは違うからこそ、お互いに補い合えるんだと思う」
その言葉に、南帆はほっとしたように笑った。
「そうだね。完璧じゃなくてもいいんだよね」
亮平は南帆の手をそっと握り、静かに言った。
「一緒に少しずつやっていこう。君が料理をしなくてもいい、僕が料理をするからさ。でも、たまには2人で一緒にポテトサラダを作ろう」
南帆は微笑みながらうなずいた。2人は、以前よりも深くつながった気がした。
お互いに無理をせず、相手を受け入れることで、2人の関係はより強く、自然なものになっていくことを感じながら、車に乗り込んだ。
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この記事へのコメント
火曜はずっと「読める小説ゼロ曜日」だったから。